北京オリンピックとともに長かった夏休みも終わってしまった。おそらく北京の大学にいる学生はみな8月24日までのやたら長い夏休みを送ったことだろう。
しかし、これといって何もないオリンピックだった。こう書くと何か期待していたのかと疑われても仕方がないが、開催前に散々中国人のマナーの悪さが危惧されたのだから何か起こらないかと予想しない方が珍しい。オリンピックが閉幕したいま、日本のメディアが何を伝えているのかはわからないが、おそらく北京五輪の暗部などを報道していることでしょう。
しかし中国側のミスややり方を批判してばかりいるけど、果たして責められるべきなのは中国だけなのだろうか。
ボクは朝倉さんがおっしゃっているように日本側、ひいては外国側にも失態があったのではないかと実感している。ただし記者ではなくボクらのもっと身近な存在、つまり観客側の問題だ。
ボクは幸いにして14日の鈴木桂治と中沢さえの柔道とその夜の野球の台湾戦、そして20日の中国戦の野球を見に行けた。しかし試合以上に目を惹かれたのがボクと同じ立場である観客の動向だった。
まずはこの写真。
最前列の座席の両端に青い服を着たボランティアが座っています。これは興奮した観客が会場に乱入するのを防ぐ処置だと思われます。
しかしこの写真。
オレンジ色のシャツを着たおじさんは言葉と国旗から見ておそらく中央アジア人だと思います。このおじさん、初めはボクの隣に(前列二席目)仲間と座っていたのですが自国の選手が出てきたら興奮してしまったのでしょう。ボランティアが席を外しているのを良いことに勝手に特等席に座り、熱の入った応援をする。
戻ってきたボランティアの言葉も介さず座り続けるのでボランティアも呆れて立ち去ってしまう。結局このおじさんは試合が終わってもしばらく特等席から観覧していました。
次にこれ。
さっきのおじさんのせいで前例ができてしまったのか、今度は別のおじさんが座っている。
シャツには『KOREA』の文字、そして韓国チームと同じジャージを穿いていたのでおそらく柔道関係者なのでしょうが、絶叫にも近いその声援は隣にいた中国人の親子を脅えさせるのに十分でした。
日本人が大好きな野球の試合には大量の日の丸旗を見ることができました。日本からは阪神の私設応援団が来ていて、日本人観客を巻き込んだ嵐のような応援が会場を沸かせました。が、静かに見たい人間にとっては気合いの入ったかけ声も単なる騒音。
通路をふさぐし笛がピーピーと耳障りだし、とてもじゃないが見ていて心地よいものじゃない。気のせいかもしれないが後半は応援団の方にブーイングが行っているように感じた。
対する中国サイドはどうかと相も変わらず「加油!加油!」と応援しているがうるさいほどではない。
だがしかしこれにはちゃんと理由が存在する。
中国の野球は百年余りの歴史があるが日本と違い人気は薄い。実力も他のアジア勢と比肩できないほど弱いので今回の五輪参加は中国人野球ファンからすれば夢の実現であったわけだが、一般人はルールすら知らない競技をどう楽しめば良いかそれすらわからない。
しかし会場には「野球は知らないけどオリンピックは見てみたい」という観客が少なからず来ているので声援は上がる。しかも日本には応援団がいて統率のとれた応援をしているから対抗心を燃やすのも必然だ。
だけど、中国人の応援はずれているのだ。
ピッチャーが投げたボールがミットに入ればストライクだろうがボールだろうが歓声をあげるし、バッターがフライを打ち上げても喜ぶ。ルールがわからない彼らは騒ぐだけで盛り上がり方がわからないのです。
ボクは気が抜けて応援するのも馬鹿らしくなりました。
それでも負けているのは見ればわかるので、しばらくすると仮設応援団長のようなものが現れまとまりを見せてくる。
リーダー「中国!!」
観客「加油!!」
リーダー「中国!!!」
観客「加油!!!」
といった具合だ。写真のように子供たちがリーダーになることもあった。
こっちの方が見ていて楽しかったので、ボクも友人と共に「加油!!」と叫ぶ。ようやくオリンピックという『お祭り』に参加できた気がした。
だが、このような『ルールはわからないからとりあえず「加油」言っとけ』という姿勢の応援がこのような事態につながるんでしょう。
だからといって中国側だけを馬鹿にできない。オリンピックは単なるスポーツの祭典ではない。政治的な意図を帯びる全世界が注目する一大事業です。だから観客が興奮のあまり他人に迷惑をかけるのも仕方のないことかもしれませんが、自分のマナーを鑑みずに他人を批判するのは恥ずかしい。
また、マナーの悪さは会場の外でも言える。
先日天津から帰ってきた日本人の友人の話です。彼は北京行きの新幹線の中で30代ほどの中年男性三人と若者一人の日本人グループと相乗りしました。お互い交流はなかったんですがグループが大声で日本語を喋っているのが友人にはいい気がしなかったそうです。その内容というのが「中国人は列に並ばない」云々のいわゆる『中国あるある』ばかりだったのですが、多くの中国人乗客の中で誰にもわからないだろうとタカをくくって悪口を言い合い嘲笑している様子に友人は、たとえ彼らが言っていることが本当のことでも腹が立ったそうです。
みんな、中国はマナーの悪い国だという『常識』を持って来ているのかもしれないが、それは免罪符にならない。
マナー改善に躍起になった中国で外国人のマナーの悪さが目立つなんて笑い話にもならないだろう。