3:33密室之不可能犯罪
本作はC国漢都という架空の都市の警察署に勤務する心理学の専門家にして刑事の葛森たちが「3時33分に人が死ぬ」という奇妙な予告電話を受けてからたった一週間のうちに幾度も『不可能犯罪』に巻き込まれる長編小説である。台湾では2013年に『3:33海島荘園謀殺事件簿』の名で出版されている。
表紙に中国版『無人生還』と書いているが、『無人生還』とはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』だ。
この作品、何がすごいかというと中盤までは警察内部にまで捜査の目を向けたクライム・サスペンスなのに、主人公たち一行が突然『そして誰もいなくなった』の映画の舞台になったという無人島へ行き、一人ずつ殺されるというクローズドサークルものになるところだ。しかも最初の死体転落事件、銃撃戦を繰り広げた銀行強盗事件、そして孤島での連続殺人事件が全て関連している。わざわざ連作にする必要はあるのかと牽強付会に見えなくもないが、この作者の自由な想像力には感服する。
一挙両得と言わんばかりに警察ものとクローズドサークルものを取り入れる常識に囚われない内容は、面白い展開のためなら場所を限定させず読者を飽きさせない作者の工夫とも言えるが、舞台の移り変わりが激しく読んでいて落ち着かない構成とも言えなくもない。そしてタイトルの『3:33』の謎は最後の最後まで隠されているがその正体にインパクトはないので、どこか途中で明かせられなかったのかと悔やむ。
心理学、法医学、宗教、ミステリなど各分野の知識を散りばめた作品だがどれもつまみ食いのような印象を受けた。テーマを一つに絞り、各作品を独立させた短篇集だったらまた違う感想を持ったのだろう。
ちなみに作者葛若凡氏は宇都宮市の栄誉市民である。ただの豆知識だ。