高智商犯罪2 化工女王的逆襲/著:紫金陳
警察の捜査を通じて頭脳を駆使した完全犯罪を行う犯人の活躍を描く紫金陳の『高智商犯罪』シリーズ2作目。本作では専門的な化学知識を持った犯人が警察組織を翻弄する。
今回の話は復讐譚だ。甘佳寧の夫が派出所に連行されたまま後日遺骨になって帰ってくる。火葬したのは派出所内で加えられたリンチの跡を隠すためだった知った甘佳寧は警察に謝罪を求めるが、実行犯である副所長に反省の色はない。そこで大学時代に『化工女王』の異名を取った彼女は自分でTNT爆弾を作り、副所長たちを巻き込んで自爆する。
ここまでが序章である。その後も復讐の連鎖は終わらず、今度は爆殺された副所長たちの遺族が甘佳寧の遺族に嫌がらせをする。そして甘佳寧の大学の同窓で同じく化学のプロフェッショナルである陳進は事件の一部始終を知ってアメリカから帰国すると、甘佳寧の遺族を守るため彼らに嫌がらせをする人間全員の殺害を決意する。
高い知能と高等な化学知識を持つ陳進によって警察の捜査も虚しく甘佳寧の遺族に危害を加えた人間たちは一人ずつ殺される。更に共犯者の存在も浮上して警察は大規模な捜査を展開するが、警察の盲点を突くような陳進の犯行はより用意周到かつ大胆になっていく。
シリーズの前作では官僚の汚職が事件と関与していたが本作では警察組織に属する公務員、ひいてはその家族たちの腐敗した行為が描かれ、そして未然に犯罪を防げない警察の人材力不足にまで批判の筆が及ぶ。
冒頭のリンチ殺人など北村豊さんが日経ビジネスオンラインに記事を書きそうな事件である。本書には更に警察の体たらくを象徴するかのように、これだけ大掛かりな捜査網を敷いた結末が犯人の自首にも似た現行犯逮捕では警察のメンツが立たないので、決死の捜査の末に犯人を見つけ出して逮捕したという筋書きに捏造するシーンがある。
メンツのために犯人を『捕まえ直す』という誠に滑稽な行為にもしかしたら実際にあるのではないか?と思わせられるが、この警察組織に対する辛辣な描写は本作がネット上で発表されたが故に読者からの反響を得るためのものかは断言できない。だが、事件の発端が警察のリンチ殺人であり、復讐者である犯人が愛した女性の遺族を守る正義の味方にもなっているように、警察を法の代弁者として書いていないことは確かだ。だから本作には犯人の復讐の邪魔をするような探偵は登場しない。
さて、これまでの作品と同様に本書も『容疑者Xの献身』のオマージュであると言えなくもない。だが私が今まで読んだ3作は『容疑者Xの献身』とは似て非なるもので、シリーズ1作目の『死神代言人』では実行犯と被保護者が意図的に『容疑者Xの献身』での石神と花岡靖子の関係を構築しているかと思いきや、被保護者の裏切りを見せることで絶妙なバッドエンドに仕立てあげてくれたし、『無証之罪』は他人のために完璧なアリバイを作るという展開に『容疑者Xの献身』を読んだことのある読者全員をハラハラさせたが、中盤のどんでん返しで『盗作』の危惧を吹き飛ばした。
ならば本作も読者を唸らす展開が用意されていないはずがない。そんな読者の期待に応えるかのように作品の質は復讐を終えた陳進が捕まっても落ちることはない。そして最後、甘佳寧の遺族を『守る』のが目的だった陳進が何故破滅が目に見えている殺人という手段を取ったのかという疑問と、事件当初から見え隠れしていた『共犯者』の存在が利いてくるのである。