中国本土の推理文学発展のために『歳月推理』と『推理世界』が誌上で開催していた【第2回華文推理大賞賽】の受賞作品が発表されました。
今回の審査員は同誌編集長の張宏利、ネットサイト推理之門の管理人の老蔡、推理評論家の天蠍小猪、翻訳者の張舟(代表作・首無の如き祟るもの)の4名です。顔ぶれは第1回目よりも権威性に欠けるかもしれませんが、この方が雑誌のカラーが反映されていると言えなくもありません。
ここに受賞作品と審査員のコメントを抜粋したいと思います。
《倒錯的涅墨西斯》作者:猫特
張宏利:トリック、論理、ストーリーともに素晴らしく、非常に艶やかな本格ミステリの逸品。
張舟:不可能犯罪と叙述トリックを合わせた短編。
天蠍小猪:叙述トリック、アリバイ殺人と解答が幾重にも用意された傑作。
老蔡:作者の本格志向が如実に表れている島田流的作品。
《六度幻想曲》作者:猫咪
天蠍小猪:解答が幾重にも用意されている内容に中国SFの傑作『七重外殻』を思い起こさせる。また小さな観点から大局を論じ、現代社会に生きる人々の異なる価値観や意識を反映させており、京極夏彦の『死ねばいいのに』を連想させられた。
張舟:第一部の告解者の独白に大量の伏線と手がかりが用意されており、そのアイディア性は評価できるが、自供書に全ての謎を解く手がかりが書かれていることにもどかしさを覚える。
《玄色以太》作者:言桄
老蔡:中国SF『三体』の影響を受けているパラレルワールドを題材にした作品。
張宏利:島田荘司のような奇想をテーマにし、虚構のゲームと現実の事件が同時進行する構成である。
《孟浮白奇案録之梧桐夜雨》作者:E伯爵
天蠍小猪:本大会で最も文章力に秀でていた作品である。だが本格要素の使い方や登場人物の造形がまだ凡庸だ。
《『狼人』観察報告》作者:別問
張宏利:様々な人間が『狼人』である少年を観察する内容で、人間描写に対する作者の実力がはっきり見て取れる。本格的トリックもなかなか凝っている。
老蔡:密室トリックの解答は目新しくないが、絵画の偽造という手段には想像力を感じられた。
《罪悪天使-迷途》作者:午曄
天蠍小猪:香港警察ものの映画や中国大陸の刑事物ドラマの影響が伺える一方で個性的でもある中国的な短編作品。
張舟:『ミスリード』で読者の興味を引く作品。しかし穴が目立った。
《前奏曲》作者:陸秋槎
張宏利:作中作構造と本格ミステリ的な論理展開が基になっており、更に超現実的などんでん返しとオープンエンド式な結末まで取り入れられている実験作。
天蠍小猪:三津田信三のような怒涛の結末が用意されている。作品の完成度や伏線の貼り方などは一般的な推理作家にも負けておらず、その筆運びも老練である。
第2回目の受賞作品とその評価をざっと書いてみたが、どれも一定の水準を超えた作品であることは確かなようである。特に言桄と午曄の受賞はベテランの面目躍如といったところだろうか。『本格ミステリ』であることが評価の基準の一つになっている賞なので、今後も開催を続けていき大陸から本格の火を灯していってもらいたい。