霜凍迷途/著:冷小張
この作品以上に『蛇足』の故事が似合うミステリは今年現れないだろう。
話自体は非常に面白い。だからこそラストの大どんでん返しが悔やまれる。
運命に導かれて1年前から行方不明になっている妻の死体を見つけたという妄言を吐く如何にも頭のおかしそうな推理小説家に急かされ、男の指示する場所を探すと実際に死体が見つかってしまった。警察はもちろんこの男を被疑者として取り調べるが、取り調べの最中に男の部屋で新たな殺人事件が起きたことで彼を容疑者から外してしまう。
だが男が殺人犯であることは事実であり、妻殺しの嫌疑から逃れるために新たに殺人事件を起こしてアリバイを作ったのだ。事件の時に警察と一緒にいたという鉄壁のアリバイを入手した男であったが、何者かの脅迫を受け更に罪を重ねることに。しかし脅迫者を始末したと思いきやそれが自分の予想していた人物とは全くの別人であることが分かり、男は自分が何者かに代わって殺人を実行させられているのではと危惧する。
また警察の方もアリバイが完璧なこと以外全てが怪しい推理小説家の男を放ってはおかなかった。そこで事件の担当刑事は優秀な頭脳を持ちながらも容疑者を殺したことで現在は刑務所にいる元刑事に協力を求める。
キレ者だったのだがある事件で容疑者に逮捕され、釈放されても警察には椅子が用意されていないという不遇の人間が事件を解くキーを握っているが、このように公安、警察組織を主人公側に置いているにも関わらず、肝心な推理を主人公が信頼しているとは言え部外者に頼むという構図は中国でもポピュラーである。
ここらへんは東野圭吾の影響が強いんじゃないかと思うのだが、この点については次のレビューの時に触れたい。
殺人の証拠を隠しアリバイを作るために平気で殺人を殺し、これから殺す被害者と自分を調べに来た警官を同じ車に乗せる肝の太さを持つ犯人が警察を誤魔化せていると思ってだんだん犯行が大胆になっていく様をきちんと描けているからこそ、背後に黒幕がいたという結末に読者の溜飲が下がるのだがそこから更に用意されていた大ドン返しは正直言って不必要だった。
他にも例えば、妻が1年も行方不明になっていたのにその間警察に行方不明者の届出を出していない(作中に記述なし)夫なんて、いくら事件当時のアリバイが完璧だろうが怪しさ極まりないのに警察もそこには突っ込んでいなかったりして完全犯罪を成立させる上でちょっと不安な点があるのも気になるが、やはり最後の『黒幕の背後にさらに黒幕がいました』的なオチの前ではどんな不備も許される気がしてくる。これがアリなら名前しか出てきていないモブが実は全てを操っていましたというオチがあらゆる作品に適用される。
この終わり方が是か非か中国人読者の声を聞きたいのだが、新刊なもんでまだ誰もレビューを書いていないのが辛い。