これまで100編以上の小説を執筆してきたミステリ小説家・軒弦の代表作・慕容思炫ミステリシリーズの短編集です。このブログ及びコラムではこのシリーズについて紹介したことが有りますが、このシリーズの魅力は神の如く推理能力を持ち、事件があるところには必ずいる神出鬼没性を備えた名探偵慕容思炫にあります。例えば『五次方謀殺』では同じ事件を何度も経験する羽目になった主人公がタイムリープしていることを見破ったり、以前の短編集『密室不可告人』ではホテル、映画館、無人島など縦横無尽に出現したりして名探偵としての力を発揮しています。そして本作でもその魅力は健在で非常にハイレベルな探偵能力を披露してくれます。
1話目は逆転裁判のパロディ『逆転法庭』。慕容思炫シリーズではお馴染みの敏腕弁護士・諸葛千諾が殺人事件容疑者の弁護を担当することになり証人の嘘を暴き検察と渡り合う法廷劇で、事件の証人として慕容思炫を召喚します。
2話目の『QQ神秘事件』は中国版Skype「QQ」で死んだ彼女から連絡が来るというホラーめいた話です。彼女に双子の姉妹がいてそれが彼女を騙っているのでは?とまで突き止めた彼氏と探偵の前に生きた彼女が現れます。
3話目は『摘星者』といい同名の義賊が活躍する話です。本作では慕容思炫は出ません。私はわからなかったのですがこの摘星者は慕容思炫の敵か味方で本作はその外伝的な話になのかもしれません。
4話目の『迷失的視点』は『慕容思炫』が自分の父親の冤罪を晴らすために子どものときに起きた事件を洗い直す話ですが、事件の概要が明らかになるうちに『慕容思炫』自身の正体が曖昧になるという真相が掴みにくい話です。
この4話を私はどこかで読んだ記憶があるのですが、『推理世界』でしょうか、それとも何かの短編集だったでしょうか。
ネットを調べてみると本書には諸葛千諾と摘星者の初出の話が掲載されているようです。つまり本書は慕容思炫シリーズの入門書のようなものでしょうか。
慕容思炫シリーズもしくは軒弦の作品は最後まで気の抜けないどんでん返しがあるのが特徴です。真相が明らかになったと思いきや更にその裏があるので、読者は事件の被害者だろうが協力者だろうが全てを疑ってかからないと足元をすくわれます。