アガサ少年探偵所-鳥小屋の影 アナ・カンポイ
(阿加沙少年偵探所―鳥房夜影 Ana・Campoy)
本書はスペインの有名なジュニアノベルシリーズの中国語版です。以下のサイトでは『アルフレッド&アガサシリーズ エルスターの10羽の鳥』というタイトルになっていますが日本語版はまだ出版されていないようです。世界的に有名な実在の映画監督と小説家が子供の頃に出会い事件を解決するというパラレルワールドを描いています。
LOS DIEZ PÁJAROS ELSTER (SERIE ALFRED & AGATHA)《エルスターの10羽の鳥(アルフレッド&アガサシリーズ)》
ロンドン東部に暮らす11歳の少年アルフレッド・ヒッチコックは親にイタズラがバレて放り込まれた留置所で冤罪を訴える男ヴィドックから伝言を頼まれる。だがその伝言の相手とは自分と同年代の少女アガサ・ミラー(のちのアガサ・クリスティ)だった。自分の屋敷の庭師であるヴィドックの冤罪を晴らし真犯人を捕まえるようとするアガサに半ば強引に付き合わされることになったアルフレッドは彼女の愛犬で尻尾が二本ある奇妙な犬のモリトールと一緒にアガサの隣家エルスター家で発生した盗難事件を調査する。
本書にはヒッチコックとアガサにまつわる実際のネタが多数散りばめられています。アルフレッドが留置所に入れられるのもヒッチコックの実体験から来ていますし、事件の中心であるエルスター家の主人のエルスター夫人が鳥を大量に飼っているという設定は彼の映画『鳥』を想起させます。アガサの執事の名前がエルキュールなのは言わずもがなです。これらのネタは本書の最後にちゃんと説明されていて読者には嬉しい配慮です。
アルフレッドは家が貧乏で労働者階級が多く住むロンドン東部に住んでいるのに対し、アガサは貴族街に住むお嬢様で屋敷には執事までいます。ですがこの貧富の差で二人に軋轢が生じることはなく、むしろアガサは両親が毎日家にいるアルフレッドを羨ましく思っていて彼を差別することはありません。このあたりは児童書らしい道徳観です。学校では冴えないいじめられっ子でギークのアルフレッドはアガサにせっつかれて最終的にはロープを伝って屋敷に侵入するまでの行動力を持つようになり、アガサとの出会いによって自信を付けます。
実際にアガサとヒッチコックって実際には接点があったのでしょうか。このシリーズでは巻ごとに特別出演のように有名人が登場します。2巻ではコナン・ドイル、3巻ではエジソンと言ったキャラクターが出演していますが、おそらく実在の人物にちなんだ事件に巻き込まれるのでしょう。
本シリーズが日本語訳される日が来るかはわかりませんが、中国以外にフランスやイタリア、ギリシャなど数十カ国でも既に販売されています。児童書らしく子どもたちの冒険が存分に描かれてハラハラされますし、日本では馴染みのある欧米の偉人らが続々登場するので遅かれ早かれ日本語版も出そうです。ただ、中国語で200ページぐらいあるから日本語にしたらもっと分厚くなりそうです。