微信殺機(WeChatの殺意)
微信とは中国版LINEのこと。LINEを使えない中国ではこのアプリが普及していて、連絡手段としてだけじゃなく電子マネーも使えるので非常に便利です。だいたいの人がスマフォを持っているので初対面のときに微信交換をするのが一般的です。
人気推理小説家の周然の携帯電話に旧友から立て続けに同一の奇妙な微信メールが届く。そして送信者はみな翌日に死体となって発見された。更にこの事件を担当していた刑事の劉康すらも何者かに殺され、携帯電話からは過去の被害者と同様のメールを周然に送っていた。事件の容疑者としてマークされ、次は自分が殺されると思い込んだ周然は恐怖のあまり自首をする。だが探偵の顧飛は周然が誰かをかばっているとして真犯人を探すのだが、犯人の魔の手は顧飛の身にも迫っていた。
本作はもともと天涯社区で連載されていたネット小説で人気があったらしいです。中国人の特に若者の生活に密着している微信が事件の発端となる冒頭で読者の心を掴み、死者からメッセージが届くというホラー小説のような設定、章ごとに真相が明らかになる読者を飽きさせない展開、などなど各種要素が受けたのでしょう。実際に豆瓣や微博では高評価のレビューがついていますが、私は声を大にして言いたい。この本、展開は面白いけど小説としては最低な内容だと。
まず本作は微信殺機というタイトルで且つ「あなたの微信の友達はまだ生きているの?」というホラー小説めいたサブタイトルまで付けられているのに実は微信がさほど重要ではありません。呪いの手紙のような微信メールが登場するのは序盤だけで、その後は微信に関する事件は起きず周然の正体を探る話になります。だからこの本は一種のタイトル詐欺なんですよね。
また序盤で出てくる気の触れた物乞いもキーマンのように見せかけて特に何の役どころもなかったり、目を疑うような美女である周然の母親も謎めいた存在として描かれたのに正体が明かされることがなかったりで尻すぼみでした。作者はミステリアスなキャラや読者の興味を惹く展開を書くのは上手いのでしょうが広げた風呂敷は畳まなくても良いと思っているようです。
犯罪者を支持する謎の組織が出てきたときは「あちゃー」と思いました。私はこういう展開が苦手なのですが中国ミステリ・サスペンスだとよくある展開なんですよね。もしかして中国人って謎の犯罪組織が好きなのでしょうか?
唐突に顧飛の過去が明かされるのもそうですが、謎が謎を呼ぶ感じで連載当時は確かに面白かったでしょうが、まとめて一冊の本として読むと決して評価の高い本ではないと思います。
それが何故世間の評価と私でこれほど差があるのか理解できません。私が読み間違えをしたのか、単純に私と相性が合わなかったのか、ただ言えることは展開さえ面白ければ話の整合性など不要と考えるミステリ・サスペンスの作者と読者が中国には一定数いるということです。
ちなみに、本作はアマゾンの紹介文で『中国版白夜行』と書かれており、また作中でベストセラー作家と紹介される周然はそれだけを理由に『中国の東野圭吾』とされています。中国には二人で逃避行していたら『中国版白夜行』、誰かのために犯罪を行ったら『中国版容疑者Xの献身』という浅はかな考えが根付いているのかもしれません。