久々の更新ですが中国ミステリではありません。
以前、中国の海に関する怪異をまとめた『海怪簡史』を紹介しましたが、本書『海錯図筆記』も性格が似ております。ただし前者が伝承等の文章メインなのに対し、本書はイラストや写真を豊富に掲載しています。
序文の内容を借りながら本書を説明しますと、本書は清朝の康煕三十七年(1698年)に聶璜が作成した『海錯図』という海辺の生き物の絵をまとめた図鑑に対する検証本です。オリジナルである『海錯図』に収録されている生き物のいくつかは作者聶璜が実際には見ておらず、他人の伝聞に基づいて描いたものがおり、姿が実物と大きくかけ離れていたり、そもそも現実には存在しない妖怪も収録されています。そこに興味を持った作者の張辰亮は図と実物を比較し検証するために中国国内を回り、ときには日本などの海外にまで赴いて実物を見に行きます。
ちなみに中国語で『錯』とは『ミス、間違い』という意味がありますがここでは『交錯、錯雑』という意味合いで使われており、『海錯図』とは『煩雑な海の生き物の図鑑』という日本語訳になります。
本書に掲載されている『海錯図』の絵及び作者が撮影した実物の写真の一例を載せます。
おなじみ海和尚。本書で正体は亀だと説明されている。
海鱓(鱓とは中国でタウナギを意味する。海のタウナギということだろう)
海鱓の正体であるヤガラ。日本では刺し身で食べられるという記述もある。
海豚(イルカ)
これは見ないで描いたんだなって一発でわかる愛嬌のある絵。陸をトコトコ歩いていそう。
泥翅
真ん中にカンザシのような骨があると書いている。
その正体はウミエラ。
このチョイス、『海錯図』はさながら300年以上前の中国版『へんないきもの』か。
どこか誇張された生き物のイラストを見て300年前の古人のユーモアセンスを感じることもできますし、写真横の説明文を見れば現代でその生き物がどう受け入れられているのかを知ることもできます。
カラーのイラストと写真を大量に掲載していて68元(1,200円)という価格は大変良心的です。しかし本書に掲載されている生き物は30種ほどでオリジナルの『海錯図』には300種以上が載っているようです。そしてこの完全版が故宮から販売されているということですので是非とも読みたくなりました。しかし完全の値段は360元(6,000円)、ちょっと手を出しにくい価格です。