戦国鬼忍伝 著:姽婳
第一印象は「アレ?山田風太郎の作品の中国語訳でも出たのかな」だったが中国人作家が書いたオリジナルの日本時代小説だった。
ときは戦国時代。幼少期に明国から日本に流れ着いた中国人の少年・張若生は甲賀忍者の杉谷に拾われ忍者として育てられるものの心は祖国である明にあり、ある日里を抜け出してしまう。しかし育ての親の杉谷が織田信長に無残に殺されたことにより彼は忍者として生きることを決意し、織田信長に復讐を誓う。敵対する忍者組織や同じ里で育った抜け忍と幾度と無く戦ううちに彼は一人前の忍びとして成長していく。
なんというか、全体的に見どころがとっちらかりすぎと言うか、作者がこの350ページを超える本書で一番書きたかった場面がどこなのかが全く伝わってこず読むのに非常に疲れた。外国人が書いた日本の小説、しかも戦国時代を舞台にしている物語に対して時代考証が間違っているとかそういう野暮な指摘はしない。だから本書が小説として面白かったかどうかだけを評価してみたいと思うが、これが全然面白くなかった。
主人公の張若生はナルトみたいな単純で激情型の性格で里の上役たちの命令も聞かず一人で突っ走ってしまったり、自己紹介で「俺は忍者だ」と言ってしまうほど脇が甘く、忍者の才能がないというよりも、こいつは忍者としての訓練をちゃんと受けていないんじゃないかと、むしろこんな子供を育てた甲賀の里の教育に問題有りと思うほどだった。
まぁそういうキャラクターがいちゃいけないわけじゃないんだけどストーリーもこの張若生任せだから全体的に単調で、少年張若生が青年になるまでの10年間を描いているから本来なら成長に伴い徐々に盛り上がっていくはずなのに展開に全く起伏がないように見える。多分作者は忍者が半人前から一人前になる過程を丁寧に書きたかったんだと思うけど、いくら成長しようがそこには自分の良心に基づいて行動するという現代の価値観と合致した成人がいるだけで、忍者にも、ましてや数百年前の人間には到底見えなかった。
実はこの本、出版が2015年の5月なのだが半年後の11月になって豆瓣のレビューで散々叩かれて軒並み星1つの評価が下されている。その理由についてここでは詳しく述べないが、辛口のレビューでお馴染みの競天澤はこの本について星1つどころか星半分だとまでこき下ろしている。
彼のレビューというか検証はねちっこいけど読み物として十分に面白いので中国語が分かる人は是非とも読んで欲しい。何より、原作でどうも文章と時代設定が合致しない怪しい記述を百度で調べたらニュース記事の一文をそのままコピペしたものだったという発見には本当に笑わせてもらった。
一応作者の名誉のために補足しておくが本書から3ヶ月後に出版された『姑獲鳥』というタイトルのサイコホラー小説は結構評価が良い。本書でも終盤の光秀が信長に叛意を抱く過程なんか読んでいてグイグイ引き込まれたので、心理描写に関しては上手いんじゃないかと思う。だからこの作者の正式な評価は『姑獲鳥』を読むまで保留にしておこう。