日経ビジネスオンラインに掲載されている福島香織さんのコラム『中国新聞趣聞~チャイナ・ゴシップス』の先週号『赤い帝国主義下の言論出版統制』に昨今の中国の出版事情が書かれていました。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20150601/283768/
ここでは識者の言葉を借りながら最近の中国で文明論や文化論に関係し、中華文明や中華的価値観に対する否定的な言論、とりわけ西洋文明の関与を匂わせる論評が検閲されやすいと書かれています。
現時点では論評に限られているようですが、出版業界がこのまま政府によって西欧色を排除させられてしまい、ついには現代中国の実情にそぐわない内容の小説なども規制されてしまうのではと危惧してしまいます。
そしてその際に槍玉に挙げられる可能性が高いのはミステリ小説でしょう。
何故ならミステリ小説に欠かせない探偵という職業は西欧的であり且つ中国では違法だからです。
中国で探偵が違法ということは昔から言われていますが、実際にどういう罰則があるのかははっきりわかりません。いろいろな話を統合すると、盗聴や追跡など非合法的手段で情報を取得することを禁じているだけであり、探偵事務所の看板を掲げること自体は罪にならず、法律に則って営業していれば捕まることはないようです。(個人的な理解です)
ですが、日本の探偵事務所と同様に中国の探偵事務所を名乗る会社も大概は人探しや浮気調査、そして知的財産保護など法律事務所の業務を行い、事件の捜査なんかは行いません。
では中国のミステリ小説ではどうかと言うと、探偵と呼ばれるキャラクターは数多くいますが本業が別にあって趣味で探偵をやっている、または周囲から探偵としての役割を頼られているだけで副業として探偵をやっている人間がほとんどです。物語ではそのような自称(他称)探偵が警察と何らかの関係性を持って事件に介入しますが、警察が探偵に協力を求めることも実際にはありません。
中国人作家が「中国では探偵が違法」というリアリティを気にしているのかわかりませんが、現代中国のミステリで探偵業で飯を食っているキャラクターはいないと思います。
更に中国では「名探偵」の名称が警察にも使われ、敏腕刑事が「名探偵ホームズ」などの異名を取ることがあります。この場合はたいてい警察や公安が主人公となって証拠や手がかりを固めて犯人を追うという構造の懸疑小説(サスペンス小説)が主です。
私は探偵とは在野におり、時には公権力と対立する存在だと認識していたため、刑事が名探偵を名乗る中国ミステリには違和感を覚えます。
出版に対する規制が厳しくなっているという昨今、非合法な存在であり民間人なのに事件に介入する中国には存在しないはずの探偵は今後フィクションの中でも存在が許されず、警察しか名乗ってはいけないという方針が出されるかもしれません。それはともすれば、トリック重視のミステリ小説がなくなり、警察しか活躍しないサスペンス小説が中国の『ミステリ小説』となる恐れがあります。
しかし規制されるのであれば小説よりもドラマが先でしょう。
2011年にタイムスリップを題材にした映画が規制された原因は粗造乱立した映画の内容があまりにも低レベルだったためだとも言われています。
最近は規制が緩いということでミステリ小説のネット映画化が中国で盛んになっているようですが、粗悪な内容のものが当局の目について規制されなければいいのですが…