5月21日に中国の映画監督・賈樟柯が自身の監督した映画『山河故人』の上映会後、集まったメディアに上海に映画会社『暖流(FABULA)』を設立したことを宣言。上質な商業映画を制作することを目的とし、最初の計画として東野圭吾の小説を改編した映画作品を中国で初めて制作するとのこと。
この記者会見ではあくまでも『計画』としか話しておらず、東野圭吾の何の作品をいつ映画化するのかなど具体的なことについては一切言及していないです。
このニュースを初めて見たときは「なんだよ、ただのビッグマウスじゃないか」と疑いましたが、賈樟柯が中国のみならず日本でも一定の知名度を誇り、オフィス北野と提携している映画監督だと知ってからは単なる夢想と片付けることができなくなりました。
記者の前で語っているのだからある程度の見通しはあるのでしょう。
中国で有名な東野圭吾作品と言えば『容疑者Xの献身』と『白夜行』は外せないでしょう。前者に似たタイトルの中国ミステリは何度も見かけたことがありますし、後者については中国の東北地方を舞台にした『東北版白夜行』とネットで揶揄される中国映画『白日焔火』があります。
しかし東野圭吾の作品は上記2つ以外も大抵は人気があると思いますので、既に日本や韓国で映像化されて中国人の東野ファンも見たことがある作品の映画を今更制作しても比較されるだけでしょうから他の原作を選べばいいでしょう。ただこの2作はあまりにメジャーですので敢えて中国版を制作することもあり得ます。
さて、もし東野圭吾の小説を映画化するとなると版権はどこから買えばいいのでしょうか。中国国内の出版社が版権を購入するとき契約書に書籍化の権利は書いているでしょうが、映像化の権利までは書いていないはずです。もし書いていれば今頃いくつも東野圭吾映画が出来ているでしょうし。だから既に中国国内で出版されている作品を映画化するのであれば賈樟柯は日本の出版社と交渉するでしょうが、彼にそんなルートがあるのでしょうか。
この点についてとあるブロガーが日本の映画プロデューサーであり『山河故人』のプロデューサーでもある市山尚三氏が『山河故人』試写会の前日に行った中国人記者とのインタビューで語ったコメントに注目しています。
このインタビューの最後に市山尚三氏は記者の「賈樟柯に日本映画の監督をさせようと思ったことがあるか」という質問に対し、「当然ある。実際、私の手元には彼に撮影させたい脚本がいくつかあり、彼も興味を持っている。ただし詳しい作品名は明かせない(以下略)」と答えています。
ブロガーはインタビューの末尾に『インタビュー終了後、賈樟柯が東野圭吾の小説を映画化させる計画があるというニュースが伝えられた』という注釈を付けており、まるで市山尚三氏が版権交渉人として動いていると推測しています。
この推理が果たして正しいのかは別として賈樟柯と日本の距離が意外と近いため、中国初となる東野圭吾作品の映画化というのは単なる与太話で終わらなさそうです。