SF、サスペンス、武侠、ホラー、ミステリなど各ジャンルを網羅する複合的雑誌『超好看』が去年2014年に主催した第1回『這篇小説超好看』(この小説が超面白い)の新人賞を受賞したのが本作である。
http://www.motie.com/huodong/chaohaokan
選考委員に何故か日本人の今村友紀氏がいる。しかも授賞式では対談まで行ったらしい。
作者林戈声はSFや武侠小説、サスペンスまで何でもこなすまさに『超好看』にふさわしい作家である。本作のタイトルが水滸伝から取られていることからもわかるように、本書は作家自身の専門知識を複合的に組み合わさった逸品である。
だが私には本書の魅力というか面白さというものが理解できず、ちょっと今回は紹介するかどうか迷った。
本書には2人の主人公がいる。新人刑事の趙銭孫と大学院生の柳公子である。趙銭孫側を表の世界とするならば、柳公子側は裏の世界であるが、2人がいったいどのような関係性にあるのか、そして2人の物語がどのように結びつくのかという謎は一向にわからず、読んでいて始終不安感に付きまとわれた。何故なら趙銭孫がいるのは確かに現実世界であるが、柳公子は外界から隔絶されたお廟で、本名や性別すらも分からない人間と不思議な空間を命がけで探検しているからだ。
注目すべきは本作の舞台が2030年の近未来に設定されているにも関わらず、未来的要素が全く見えないことだ。だが、西暦3000年の日本を舞台にした『リアル鬼ごっこ』ではあるまいし、何も考えなしに年代を未来に設定するわけがない。その期待は中盤辺りから叶い、物語には徐々にSF要素が顕著になっていく。更に柳公子がいる世界のおかしさも目立ち始めて、話が現実離れするほどに表と裏の世界の繋がりが明らかになるという構造には唸らされる。
世界観が掴めてからの中盤から、2つの世界がまさに表裏一体だったのだと明らかになる終盤までの流れは見事ではあるが、序盤の冗長な展開には全く辟易させられた。どうもこの作家は推理小説のメソッドには疎いんじゃないだろうか。
物語の冒頭で紹介される柳公子が迷い込んだお廟が外界と隔絶されていて、内部の人間としか連絡できない微信(ウィーチャット。中国のLINE)を使って顔の見えない他の生存者と情報をやりとりするという手段にクローズドサークルものの新たな可能性を感じたのだが、実はそれは全くの誤解で、やはり本作はミステリではなかったのではないかと思う。
はじめからSFとして読んでいれば、いったいこの本の何が面白いところなのだろうと悩みながら読み進めることもなかったんじゃないかと後悔している。