本書は2011年に非ホジキンリンパ腫に罹り、2012年に亡くなった中国人漫画家・熊頓氏が自身の1年間の闘病生活?を微漫画(微博/マイクロブログの漫画)に掲載した漫画をまとめたイラストエッセイです。最近映画化されてそれがなかなか好評を博しているので今更ながら購入して読んでみました。
『闘病生活?』と書いたのはエッセイには特に悲壮感が漂っていないからです。実際の入院中、彼女は精神的に不安定になっていたようで漫画を描くことで平静を保っていたのかもしれませんが、本来なら辛くて退屈な入院生活のはずなのにまるで日常生活の延長であるかのように描いています。賑やかな入院生活を見ていると命に関わる難病を患っている人間とは到底思えず、化学療法をするために髪の毛を全部剃っても、イケメンがいたらわざわざカツラをかぶり直したり、太ればダイエットをしたりと日常に戻ろうとしている様子にはやはり全く悲壮感を感じられません。
作品には暗い描写を排してギャグに走ってオチをつけるという姿勢が貫かれていて、読んでいると闘病なんか大したことないんじゃないかという気にさえさせられますが、何の前触れもなく作者逝去という形での終わり方には普段一緒に暮らしていた知人との突然の別れを想起させ、死んでしまったことのそのリアリティによって彼女を身近に感じることができます。
本書の不満は漫画に登場する彼女の友人たちが一体何者なのか書かれていないことです。恐らく著者の他の作品に既に登場している人物なのでしょうが、簡単な紹介ぐらいは書いて欲しかったです。
彼女の闘病生活は笑いと優しさに包まれていますが、この漫画の裏では幾度と無く涙を流したのでしょう。しかし彼女の1年間をこうして漫画にして振り返ってみると、人間は笑いながら死ぬこともできるのかなと前向きな気持ちにさせられます。
さて、本書の著者紹介では熊頓氏が『中国のたかぎなおこ』(注:中国ではたかぎなおこ氏(中国語表記:高木直子)のエッセイ漫画が非常に人気があります。。と呼ばれていると書かれていますが、両者の関連性がいまいちわかりません。
あとこの作品は微漫画に『滾蛋吧!腫瘤君』(出て行け!腫瘍君)というタイトルで掲載されましたが実は没になったタイトルがあります。それがこれです。
この『夜勤病棟』というタイトル案は彼女の友人たちに「このエロ女が!」とツッコミを入れられてしまいます。
著者熊頓は1982年生まれのいわゆる『80後』なのですが、これはつまり中国人の30歳代女性はみんな『夜勤病棟』を知っているということでしょうか?
現在中国で公開中の映画は原作にはない熊頓と医者との恋愛(なんかフィクションとして残酷すぎる気がする)も描かれているようで、『宅女偵探桂香』なんかよりよっぽど面白いと思います。(どっちも見ていないですが。)