2016年9月の北京は中国SFのイベントが集中する月でした。9月8日は第27回科幻銀河賞授賞式が北京航天大学で執り行われ何夕の『天年』が最優秀長編小説賞が選ばれ、そして9月9日から12日までは全球華語科幻星雲賞に関するイベントが主に北京市海淀区の各地で開催されました。
今回はその全球華語科幻星雲賞に関するイベントの報告をまずは9月9日分から行います。
9月9日は北京師範大学にて『中日科幻小説と影視動画漫談』(日中SF小説と映像作品に関するトークショー)が開かれ、日本側からは藤井太洋とたちはらとうや、中国側からは日本の『SFマガジン』に『鼠年』が訳載された陳楸帆、『文学少女偵探』の作者であり過去2回全球華語科幻星雲賞に入賞している梁清散、そしてSF小説家でもあり日中翻訳者でもある丁丁虫が日中SFトークを展開。
(写真は左から陳楸帆、たちはらとうや、通訳、藤井太洋、梁清散、丁丁虫。スクリーンには中国SFの代表的人物であり北京師範大学出身の呉岩が映っているが当日急に来られなくなり、代役で梁清散が話すことになったらしい。)
トークショーでは主に日本SF業界の現状に興味が集中。その中で、たちはらとうやさんが語った中国SFを日本へ輸入する際の問題点は、中国文学の中でも比較的メジャーなSFならでは起こる問題に思えました。日本の出版社側に中国語のわかる人がほぼいないということは仕方ないとしても、中国SFを知るためには英訳された作品を見なければいけず、更にその作品を日本で発表する段で中→日翻訳するのではなく、中→英→日という手順を踏みたがることは日本における中国SFの発展をだいぶ阻害するのではと感じました。この点には陳楸帆も「原作の意味がどれだけ残るかわからない」という作家としての不安を上げていました。
また、藤井太洋さんはトークショーの来場者を見て「年齢層が日本と比べてだいぶ若い」と指摘。当日は各大学のSF小説研究会のメンバーも来場者として参加していましたが、作者も読者も若いというジャンルは成長の余地が十分残っていていいですね。
質疑応答では「日本ではSFとは何を指すのか?」という極めて単純で難しい質問が寄せられ、藤井太洋さんが「その作品を指してこれはSFではない否定してはいけない」真剣に忠告する場面も。
トークショーのあとは『未來全連接』というSFショートショート作品大賞の授賞式が始まりました。
まさか中国にこれほど多くのSF小説研究会があったとは驚きました。
このトークショー兼授賞式は決して大きな規模ではなかったですが、それでも中国SFの長老格である王晋康(写真左から2番目)や董仁威(写真右端)が顔を出しており、やはりこの期間は中国SF界にとって貴重な日々なのだなと感慨深くなりました。
まぁただ個人的に一番ドキドキしたのが私の隣に座っていた男性がSF小説家で『外星人在中国』(宇宙人は中国にいる)というノンフィクション書籍の作者だったということです。「中国にも矢追純一やたま出版の韮澤さんみたいな人っているんだなぁ」と感心しつつ「あなたの本絶対買います!」と約束したのですが、アマゾンでも京東でも見つからなくて困っています。本人に連絡を取るしかないのかな…