ページを見ると台湾や香港の他に中国大陸に存在する都市伝説が列挙されています。この単語もとっくの昔に中国語に馴染んだようです。
では北京に都市伝説はないのかと再び百度で調べたら、その名もまさに『北京的都市伝説』といううってつけの掲示板がヒットしました。
50近くあるのでボクが気に入ったものだけ訳して紹介してみたい。下手な日本語訳なのはご容赦願いたいです。
1,故宮
みんなも知っている通り故宮って実は一部分しか開放していなくて、大部分は閉鎖されている。具体的な原因は誰もはっきりとは説明できない。けれど噂では解放(注:1949年の中華人民共和国成立のことか)されたばかりのとき、故宮博物館を夜中巡回している警備員がいつも奇妙な動物を目撃していたらしい。ネズミのようだけどとても大きく、豚のようだが恐ろしく速い。人が言うには皇族が東西宮の鎮宮で飼っていた獣らしい。
その後多くの人間がこれを捕まえようとしたが、60年以上が経った今でも、見た人間ばかり増えるだけでまだ誰も捕まえられていない。考えてみれば不思議だ。
いかんせん故宮は一度も観光したことがないので、その大部分が閉鎖されているとは知らなかったです。
ネズミや豚に似ているということはきっとありきたりな姿をしているのでしょう。ですが正体不明の奇怪な動物が今も故宮に暮らしていると考えると、改めて故宮の広さに思いを馳せます。
先日故宮博物館で間抜けな盗難事件が起きたときも、きっと警備員は泥棒をその動物だと勘違いして見逃してしまったんでしょう。
故宮にはこの話の他に数多くの異変が起きたと言います。
鐘楼の大鐘は今でこそ鳴らない。だがまだ鳴っていたときのこと、鐘の音の残響は微かに『邪、邪、邪(xie、xie、xie)』と聞こえていた。
「鋳鐘娘々がまた靴(xie)を探しているんだ!」と老人は口にする。
老人が言うにはその鐘を造った鋳鐘師は最大級の尊重を受ける人間であった。彼には娘がいた。その日、娘は父親へご飯を届けに鋳鐘場へ来たところ、なんといきなり溶鉱炉に飛び込んだ。助けようとしたときには既に手遅れで、父親は刺繍が施された靴しか掴めなかった。
みんなが溶鉱炉を見てみると、溶解した銅はまったく別の色に変貌していた。そしてみんな一丸となって作業にかかり、その晩大鐘を仕立て上げた。
その後の話しによれば鋳造所はなくなり、その場所には娘を祭る廟が作られた。現在も鼓楼の後ろには使われていない鉄の鐘が置かれているらしい。
獣の槍……?
この伝説自体は存在します。ただし話はもう少し長いです。
鋳鐘師はますはじめに鉄の鐘を造りましたが、皇帝はそれを気に入らず銅の鐘を造らなければ処刑すると命じました。しかし期日を迎えても銅の鐘は完成しません。そこで見かねた娘が溶鉱炉に飛び込み立派な銅を作り上げたのが鐘楼に伝わる伝説だそうです。
この正規の伝説があるから、話の終わりに唐突に『鉄の鐘』が出て来るんですね。
なんだかますます『うしおととら』の獣の槍誕生譚に見えてきます。
しかし、鐘と女と聞くと、蛇に化生して大好きだった坊さんを彼が隠れていた鐘ごと鋳殺した清姫の伝説を思い出します。
8,最終バス
北京にある330号線バスは当初頤和園から香山の間を運行していた。1992年ころだったか、ある晩に330号線の最終バスに一人の若者が乗車してきた。車内を見回すとバスはガラガラで、運転手と切符売り(注:中国のバスには切符を売るスタッフ[だいたいオバサン]が乗っている)の他には2人で一緒の席に座っている乗客しかいない。
次のバス停に着くと老人が乗ってきた。そしてバスはのろのろと発進した。5分ほど経ったとき、さっきの老人が若者に近寄るやいなや襟を掴みこう言った。「さっきオレになんて言いやがった?」
若者は「何も言ってませんよ?」と弁明するが、老人は「いいやそんなはずはない。さっさと降りろ!まだ終わってないんだ!おい運転手、さっさと停車しろ!」とおさまらない。運転手も車を止めるしかなく、老人と若者を下ろした。
下りたあと若者は老人に向かってこう言った。
「あんたおかしいよ。誰も何も言ってないよ」
「ボウズ、礼は言わなくて良いぞ。さっき車の中にいたあの二人、足がなかったのがわからなかったのか?」
翌日その最終バスはもう跡形もなく消えていた。この話はかつて北京テレビ局が番組でデマだということを明らかにしたが、それでもとても面白い話ではある。
異常に気付いた人間が誰にもバレないように他人を強引に助け出すという構成は、有名な都市伝説『ベッドの下の男』とどうしても関連づけてしまいます。
この話には別のパターンがあって、二人組が殺人犯だったり、もっと恐ろしい悪霊だったりします。因縁の付け方にもバリエーションがあり、「噛んでたガムをつけただろ!」、「財布盗ったろ!」という老人の理不尽な怒りが若者に降りかかります。
共通しているのは老人が若者を救うということと、どんなルートを選んでも運転手とキップ売りはバッドエンド確定だっていうことです。
9,紅いチョッキ
1996年の秋のこと、大学一年生だった私たちは北京の昌平園という場所に『流』された。当時この田舎にはこのような恐ろしい話が広まっていた。
事件は1994年の4号楼の4楼女子学生寮で起こった。ある夜のこと、11時の消灯後に女生徒が水飲み場で水を汲んでから薄暗い廊下を渡っていると、忽然背後から「紅いチョッキ欲しい…?」という重苦しい声が聞こえた。女生徒は身の毛がよだち、大慌てで自分の部屋に戻った。
その後数日間は誰も水汲みに行こうとしなかった。だがしばらく経つと、あの女生徒もすっかりこの事件のことを忘れていた。ある日のこと、またもや11時の消灯後にとある女生徒が一人で水を汲みに行った。そしたらまた「紅いチョッキ欲しい…?」という奇妙な声が聞こえた。女学生は誰かがふざけているのだろうと思い、くだらなかったので大声で「欲しい!」と叫んだ。しかし何も起こらず、その女生徒は水を汲んで寮に戻った。
翌日、ルームメイトはみんな起きているのにその女生徒はまだベッドの中で眠ったままだ。彼女はいつも一番はじめに起きるはずなのに何で今日に限ってまだ起きないんだとルームメイトたちは訝しんだ。起こそうとしたのだが何をやっても目を覚まさない。
そして布団をめくると、なんと女生徒の体はまるで赤いチョッキを着ているかのように血で真っ赤に染まっていた。女生徒は既に息を引き取っていた。
この話は先輩から後輩へとずっと語り継がれている。その後聞いた話によると94年度にとある女学生が確かに夜中死んでいた。死因は脳溢血だったという。
まるで稲川淳二の傑作怪談『赤い半纏』ですね。
原文が『紅馬甲要嗎?』なので着せる着せないとは言っておらず、訳では『あかーいチョッキ、着せましょか~』と稲川先生っぽくは書けませんでした。
ちなみにこの『馬甲』は袖無しの中国服でどうやらこういうものらしいです。
辞書の通りに『チョッキ』と訳しましたがどうもイメージと合いません。何か良い日本語訳はないんでしょうか。
26,北京大学5教学楼609教室、15人の自習室
話に入る前に中国の大学について少し説明を付け加えます。
学生たちが暮らす寮には消灯時間があり、その時刻になると問答無用で電気が消されます。そこで大学側はまだ勉強をしたい学生のために一部の教室を開放して、深夜どころか朝までの徹夜を許しています。
このことを踏まえてから下の話をお読みください。
5教学楼は毎年学生の1人や2人が落ち込んだ末に飛び降り自殺をすることから、古くから烈士楼と呼ばれていた。
その可哀想な学生たちはみな各学部のトップばかりで成績は驚くほど高く優秀だ。それで競争のプレッシャーに耐え兼ねて空しくなってしまい……
要するに、今までで可哀想な学生は15人いたわけだが、本来は14人だった。さて最後の1人はというと……
5年前、1人の女生徒が期末テストの思想の授業のレポートを提出するのを忘れてしまった。しかしその先生は話のわかる人で、彼女に3日後までにレポートを提出するよう何度も言い聞かせた。しかし授業の復習で忙しく、もう徹夜するしかなかった。
そのとき彼女は609教室にいた。
真夜中ようやくレポートを仕上げたときには既に夜中の2時を回っていた。建物には本来まだ生徒がいるはずなのだが、おそらくみんなさっさと帰ってしまったのだろう。がらんとした建物には彼女1人しかいなかった。しかし怖いもの知らずなこの女生徒は携帯ライトを消して机に突っ伏して寝てしまった。
3時半、彼女は寝ぼけ眼をこすりながら身を起こした。すると教室には同じく自習する生徒たちが大勢いた。彼女もとりわけ深く考えず教科書をめくり自習を続けた。
しかし少しするとおかしなことに気がついた。彼らは教科書を読んでいるのだが、携帯ライトや懐中電灯、あまつさえロウソクを灯している学生もいる。しかも勉強しているというのに物音ひとつしない!
女生徒は奇妙に思い、近くに座っている生徒をこっそりと見た。そして彼の教科書に書かれている文章をのぞいて彼女ははっと思い出した。
これって文革前の教科書だ!!!
後に彼女はもう少しで気絶しかけたと語った。その学生の服装を注意して見たら灰色の中山服を着ている。ばれないように人数を数えてみると男女合わせて、14人いる!!
その後どうなったか彼女は全く覚えておらず、夜が明けてからやっと眠りから覚めた。
それからというもの彼女の気分は悪いままで、夜も1人では出歩けなかった。また、おそらくショックを受けたのだろう。期末テストを3つも落として、彼氏と別れてからは転がるように……
そう、最終的に彼女は15人目となったのだ。
死んでもテスト勉強をし続ける生徒たち。この世に未練を残した理由もよくわからないし、彼らを成仏させる術も見当たりません。怪談にこんなこと言うのはおかしいですが、エライ理不尽です。
七人ミサキのように、魅入られたら仲間にさせられるってことなんでしょうか。
北京大学には他にもいくつか噂がありまして、全て集めたら七不思議になりそうです。何で中国の最高学府に怪奇現象が蔓延っているのか定かではありませんが、もしかしたら表に出てこない文革関係の怪談もありそうです。
民俗説話や民間伝承らしい古めかしい話から、いかにも都市伝説といった妙にリアルな話まで、北京には至る所に怪談が息づいているようです。恥ずかしながら北京に4年間暮らしているのに、ただの1話も聞いたことがなかったですが……
まだじっくりと目を通してはいないのですが、思わず『2ちゃんねるの超怖い話』や『死ぬ程洒落にならない話を集めてみない?』をはじめて見たときの興奮が蘇りましたね。
このあとに、中国の都市伝説と言いながら日本の都市伝説に影響を受けていると言わざるを得ない、上記の『紅いチョッキ』のような話を紹介するつもりでしたが、長くなってしまったので残りは後半に書きます。