外国人店員によるアップルストア前テンバイヤー襲撃事件から2週間以上経ちますが、店側が被害者に多額の慰謝料を払うことで手打ちになったようでなんともつまらない決着がついた。
オレもオレもと殴られに来る転売屋が行列をつくる、みたいなことが起こっても不思議じゃないと思ったのだが。
・遭遇・
事件も収束した5月24日の水曜日、用事があって三里屯まで行った道すがらアップルストアにも立ち寄った際、異様な光景が目に飛び込んできた。
アップルストアを囲むように10数人の中国人が大小2つの真っ白な箱を持って立っているのだ。
大き目の箱にはiPad2、香水の箱サイズの箱にはiPhone4と印刷されている、
ボクは呑気に「ああiPad2ってまだこんなに余ってるんだなぁ」としか思わず、アップルストアに冷やかしで入って液晶画面にいたずらに指紋を付けてから店を出た。
そのとき箱を抱えた中年女性がボクに近寄りこんなことを言った。
「iPad2あるよ」
そう、アップルストアの周りにいた彼らは全員テンバイヤーだったのだ。
(※この日はデジカメ不携帯だったので写真はありません)
・外で待ち構える転売屋・
入り口と出口の周りにいる怪しい人物はざっと数えても20人以上いる。
男女比率は6:4で男性の方が多そうだ。年齢はバラバラで中年者や壮年者、20代前半や10代にも見える若者もおり、全員iPad2とiPhone4をセットで1つ以上持っている。
中にはサンタクロースが持っていそうな真っ白な大袋いっぱいに箱を詰めている者もいる。おそらく、売れたらそこからまた補充するのだろう。
アップルストアには入り口と出口にガタイの良い店員が配置されているが、彼らは転売屋たちを追い払うのでもなく、憮然とした表情で無視し続けている。店に近づきすぎた転売屋にだけ口頭で注意をするだけだ。
これ以上の営業妨害はあろうか、と感心するぐらい異常な光景には目が釘付けになった。しかし転売屋には関わりたくないし、アップルストアの店員は「マイクロソフト以外のこと聞くんじゃねぇよ」って厳格な顔をしているので彼らに事情を聞くことはできなかった。
・観察・
転売屋たちの様子を盗み見て盗み聞きしているといくつかのことがわかった。
まず、値段は6,000元であるらしい。
どちらの値段を言っているのかまでは聞き取れなかった。公式価格としてiPhone4(16GB)が4,999元、iPad2は3,688元なのでおそらく前者のことを言っていたんじゃないだろうか。
何せ目の前の店では、当日購入は出来ないけれど予約したら確実に本物を手に入れられるのだから、商品に希少価値はそれほどない。
転売屋たちは大声を挙げない。決して「iPhone4あるよーiPad2あるよー」と威勢良く売り込まない。自分たちが持っている商品に興味を向けた通行人やストアから出て来た人に対してだけ、小声でアピールする。それが正規品店への遠慮なのか、はたまた不法行為に対する法的配慮なのかは見て取れない。だがその静けさが不気味だ。
彼らを観察しながらアップルストアの周りを歩くと路上に設置された看板が目に留まった。そこには『最近このあたりで本物かニセモノかわからない携帯電話を売るダフ屋が多発しています云々』と違法行為に警戒を呼びかける文章が書かれている。そのすぐ向こうでは大勢のダフ屋がたむろしているというのに。
付近を一周して戻ってくると通行人と転売屋の間で商談が始まっていた。中国人の若いカップルがiPhone4を手に取っている。箱を開けて商品を取り出し操作を一通り確認する。『本物かニセモノかわからない』のだから入念なチェックは当然だ。
・絶好の穴場・
彼ら転売屋たちは以前からストア前で商売をしていたのだろうか。映画館の前で海賊版DVDを売っていたり、服屋の前で服やバッグを売っているところはよく目にするが、感覚的にはそれと同じか。
確かに、iPhoneやiPadが欲しい人々が集まる場所はどこだろうと考えたとき思い浮かぶのはアップルストアだけど、本当にその場所で商売してしまう面の皮の厚さには恐ろしさすら覚える。
アップルストアは前回の事件で評判を落としたし、今はまだ強行的に出ることができず彼らを追い払えないのかもしれない。もしくはダフ屋で買ってニセモノをつかまされたヤツが出ても、うちの責任じゃないと黙殺を決め込んでいるのかもしれない。
店側の消極的な対応を狙ったダフ屋行為だとしたらずいぶんと狡猾で、その様子から犯罪行為へのある種の庇護すら見てとれる。
・ハニートラップ・
ボサっとしていたらさっきのカップルはいなくなっていた。近くに100元札の束を数える男性がいたが全然幸せそうな顔をしていない。あの札束のうち何枚が彼の懐に入るのだろうか。
転売屋たちの間に弛緩した空気が流れ始めてボクは席を立った。そのとき、か細い声で「iPhone4いらない?」と声を投げかけられた。
ベンチに座っていたのは、ボブカットに緑色の短パン、白と黒の縞模様のニーソックスを履いた細身の女性だ。その格好に一瞬値段を聞きそうになったが、幸が薄そうでやる気が感じられない顔に興味をなくす。そもそもボクなんかが財布に紅い毛沢東を何十枚も入れているわけないだろう。彼女だってそう思っているはずだ。
定価より高い金額、ニセモノかもしれない疑い、そしてATMまで走る手間を考えたら予約不要のメリット程度じゃ割に合わない。
・毎回考えさせられる《どっちが悪い》くらべ・
正規店の目の前で商品を売る転売屋たちには嫌悪感を覚えるが、大枚をはたいて買う人間がいることにも驚愕する。
実際動作を確認できるので、購入者がニセモノをつかまされることはないのかもしれない。だがその信頼は全く見当違いな方向に向けられており、厚かましくもたくましい転売屋の生活を支えているのだろう。
※追記※
28日に西単にある別のアップルストアの前を通ると、ここにも転売屋の姿があった。
この日はデジカメ持ってた。
通行人の群れに混ざって転売屋の男性に尋ねてみたところ、iPhone4は5,400元、iPad2は4,200元と回答をもらい、「安いよ」と勧められた。
この調子では北京中のアップルストア全てに転売屋の影がうろついているのだろう。
三里屯で転売屋をボコボコにしたストアの外国人店員の怒りが今なら理解できる。ガラス張りのアップルストアの中から見える転売屋たちの姿はあさましく、街の美観を損ねているのだ。