本来は【萌芽】という文学雑誌に寄稿している作家がその誌上で連載した長編推理小説。
子供時代の約束を果たそうと田舎に帰った主人公たちが復讐劇に巻き込まれるというサスペンス色の強い作品だ。
本格推理ものだとははじめから思っていなかったが、上京した者と田舎に残った者の格差やコンプレックスを暴く社会派でもなく、小奇麗にまとまった感の強い小説になっている。
村から出た者も村に残った者も成功してひとかどの人物になっているのは、物語を安易な復讐譚にさせない構成だろう。だからこそ主人公たちが狙われる原因も犯行の動機もわかりにくい。しかし、王道展開を選ばなかったにふさわしい結末だったとは評価できない。
肝心のトリックは絶海の船上という舞台と日付を利用した時間差トリックで、なるほど作中に細かく日時の進行が書かれていたのだから、その可能性を見落としていたのは読者の怠慢である。顔のない死体があれば死体の入れ替えを疑うのは常道であり、時間経過を細かく描写していたら時間差トリックが仕掛けられているのが確実なのだ。
犯人の動機は十数年伏在していたわりには弱く、殺された幼馴染たちにもそれほどの過失は感じられない。またラストに真犯人の正体が明かされるのだがそれも蛇足にしか読めなかった。
作者は前書きでタイトルの《双子・悪童》とは松本大洋の『鉄コン筋クリート』の中国語訳から取っていると明言している。
その作品を読んだことも観たこともないので比較することはできなかったが、作中の後半からはむしろ『20世紀少年』の匂いを感じずにはいられなかった。
主人公の少年時代の回想に現れる顔も名前も出てこない人間がいる。
友人を後ろから突き飛ばし、ガキ大将に一泡吹かせ、いつも自分たちグループの最後尾にいたのに、友達の誰一人として覚えていない彼は一体誰なのか。主人公は彼こそ今回の事件の真犯人じゃないかという疑いを強めていく。
確証を重ねた最終局面、主人公の前に突如として現れる真犯人の正体がまさに、誰だよお前!!カツマタ君か?!と驚くほど影が薄い。
読み返してみると確かに話には出てきているのでミステリとしてアンフェアではないのだが、最後のタネ明かしまでどうも盛り上がりに欠ける内容だった。