集英社と中国の出版社が協力し中国国内で発行している漫画雑誌『漫画行』の第2号をようやっと入手しました。ワンピースと黒子のバスケの最新話が2話ずつ掲載され、あとは尾田栄一郎先生のインタビューがあるけど、それ以外の漫画は全て中国人漫画家の手によって描かれたオリジナルです。
でも今回取り上げるのは『漫画行』ではありません。連載陣の中に現在天漫誌上で『10号露蘭』を連載中の漫画家于彦舒の名前があったのが気になりましたが、その紹介はまたにしましょう。
実は同じキオスクでかねてより目をつけていた『月刊漫画少年』をようやく購入できました。漫画少年の騒動については以前も書きましたが、実際中身を読んでみると多くの問題は見受けられたので、もう一回取り上げようと思った次第です。
・過去記事
「進撃の巨人が読めるのは『漫画少年』だけ!」商業誌が堂々と海賊版掲載し問題に(阿井)
事の発端は2013年10月7日のマイクロブログ新浪のつぶやきです。翻訳サークル『鼠絵漢化組』が、自分たちが翻訳した『進撃の巨人』が勝手に流用され、雑誌には更に「日本から版権獲得」とフザけた謳い文句が書かれているとツイートします。
そのツイートを講談社と中国の出版社が発行している『勁漫画』のアカウントが見つけ、講談社が中国大陸で『進撃の巨人』の版権を与えたことはないと否定し、『漫画少年』は速攻で海賊版認定されました。
それから約半年が過ぎましたが『漫画少年』はしぶとく生き延び、私が買った雑誌は2月号で号数は既に第6号を数えておりましたが反省の色は見えません。
1.出版社を無視した連載陣
雑誌には日本の漫画しか載っておりません。以下が本号のラインナップです。右に本来の掲載誌を添えております。
進撃の巨人 (別冊少年マガジン)
死神様と4人の彼女 (ガンガンJOKER)
王国ゲェム (月刊コミック電撃大王)
汐ノ宮綾音は間違えない (月刊少年エース)
学戦都市アスタリスク (月刊コミックアライブ)
FANTASMA (月刊ジャンプスクエア)
アンノウン (月刊少年ガンガン)
ソードアートオンライン (電撃文庫MAGAZINE)
スクール人魚 (チャンピオンRED)
講談社に集英社、スクエニや電撃、秋田書店まで揃っております。まさか2014年にもなってここまで節操のない漫画雑誌を目にすることができるとは思いませんでした。
でも何故これらの漫画を選んだんでしょうか。一応全て月刊誌の掲載作品で統一しているようですが…悪いんですが中国暮らしの長い私には聞き覚えのない作品ばかりで、ということは一般中国人はますますピンと来ないんじゃないでしょうか。
2.繁体字と簡体字の混合
翻訳サークル『鼠絵漢化組』が自分たちの翻訳作品が勝手に使用されていると指摘していましたが、他の作品もネットにアップされている中国語版を無断で掲載しているようです。
『進撃の巨人』と『ソードアートオンライン』を見てみましょう。
(進撃の巨人)
(ソードアートオンライン)
1枚目の『進撃の巨人』は繁体字(台湾・香港で使用される漢字表記)になっているのに、2枚目の『ソードアートオンライン』は簡体字(中国大陸で使用される漢字表記)です。『進撃の巨人』は第1号では簡体字だったようですが、今は繁体字になっているのは、翻訳サークルに文句を言われたからでしょうか。
でも今号で掲載されている53話はまさしく『鼠絵漢化組』が訳した繁体字版そのものだから、簡体字に変換するより悪質なんですが。
漫画少年
鼠絵漢化組(リンク先中国語)
3.残っている日本語原文
擬音や背景に日本語が残っているのは仕方ないとして、あらすじや柱コメントが日本語のままなのはネットにアップされている漫画をそのまま流用しているからでしょう。この雑誌を作っているスタッフが翻訳とDTP作業が出来ない証拠です。
4.連絡先が不明
表紙裏には出版社や編集スタッフの名前が書かれているのですが、検索しても情報が何も出てこず会社の存在自体が疑わしいです。
出版社:『秋葉社』雑誌社
編集長:秋葉昌宏
総合マネージャー:加籐弘一郎
アートアドバイザー:佐籐嘉美子
スタッフ9名中3名が日本人。けれど自身の名前を社名にしている編集長を含めて全員どこの誰だかわからず正体不明です。『秋葉社』という会社は百度でもGoogleでも出てきません。
そしてスタッフの名前をよく見ると、佐藤と加藤の『藤』が草冠ではなく竹冠の『籘』になっている。佐籐さんや加籐さんがいないとは言わないがそんな偶然あるでしょうか。
そして一番の問題は出版社の住所も電話番号も連絡方法も何も書いていない点でしょう。もちろん公式ホームページもなければ、マイクロブログすら作っていないようです。つまり、苦情を言おうにも窓口がありません。
どこに繋がるかわからないQRコードも怪しいが、ここで更に奇妙な点を見つけました。この雑誌にはISBN(国際標準図書番号)はあるのにCN(中国国内番号)が見当たりません。中国の雑誌はCNがなきゃ発行できないと聞いたことがありますが、これは一体…
もしかしてこれ…海賊版云々じゃなくて違法出版物なんじゃ…なんでこんな雑誌が出版できるのだろうと不思議でしたが、然るべき機関の検査を受けていないのならば筋が通ります。出版の許可すらそもそも取っていないんじゃないでしょうか。
・結論
昔からこの手の海賊版漫画雑誌は存在しておりましたが、それには同人誌的な意味合いがあり、面白い作品をみんなに紹介したいという動機が備わっていました。それも言い訳に過ぎないのですが、少なくとも作品に対する愛情が感じられました。
この漫画少年は4,5年ぐらい前までにはよく見かけたそれらの海賊版漫画雑誌より品質の面では遥かに劣り、騙しの手口は更に巧妙になっているように見受けられます。これが掲載作品の版権を得ている可能性は限りなくゼロに近く、よしんば得ていたとしてもこんな低クオリティの雑誌を正規版とは認められません。
他者が手がけた翻訳物を無断で掲載し、本来なら同じ穴の狢であるはずの翻訳サークルから「恥知らず」と罵倒され、掲載作品に『版権取得』と銘打つばかりか日本人社員の名前を捏造し、雑誌がまるで日本と協力関係にあると見せかけ、中国の各出版社が日本の出版社と協力し正規版を国内に広めようとしている現在の情勢と逆行する存在です。
しかし著作権の面で弱みがある海賊版を商業に使用するずる賢さと、苦情を避けるために責任者を一切表に出さないしたたかな態度は確かに卑劣ではあるものの、感心させられます。ただし、漫画雑誌としては三流以下ですので見かけても購入しない方がいいでしょう。
漫画少年は言わば日本の出版社から正式に版権を得た雑誌が続々と誕生する時勢に便乗して生まれた紛い物です。『版権』云々書いているあたり悪質性が高いです。
天漫(角川書店)、勁漫画(講談社)、龍漫(小学館)そして漫画行(集英社)は中国に面白い作品を普及するだけではなく、これら粗悪品の駆逐が今後の課題となっていくでしょう。