前回の続き
参考サイト
海賊版サイトとネタバレ師との間に一体なにが起こったのか。まずは海賊版サイト『鼠絵漢化』が発表した『掲示板のネタバレ師の通報を受けて鼠絵が全ての中国語版マンガを撤去した件に関する通知』を見て、あらすじを簡単にまとめたいと思います。
『掲示板のネタバレ師の通報を受けて鼠絵が全ての中国語版マンガを撤去した件に関する通知』
鼠絵は一本の通報によって「呼び出し」を喰らいました。関係者の協力の下、この鼠絵を粛清しようとした勇者の正体を調べたところ、驚くべきことがわかりました。それは掲示板に長年ネタバレをアップしていたlawofuekiだったのです。
彼はもともと鼠絵漢化サークルに所属していましたが入団テストの成績が普通だったのでワンピースの翻訳をさせていませんでした。その後彼は掲示板のワンピーススレッドやジャンプスレッドに簡単な翻訳や転載をするようになり、いつしか有名人となり、鼠絵漢化サークルを退団しました。
そして、lawofuekiは毎週木曜日にあらゆる海外サイトに張り付いてジャンプスレッドにジャンプを最初に転載する「神」のような存在になりました。
つい最近になって鼠絵がアップした翻訳に間違いがあったことで、鼠絵と掲示板の間に軋轢が生じたが、これがlawofuekiを刺激したのか彼はその後「合法的な利益を守る」という名目で鼠絵を通報するようになり、Twitterでもジャンプの編集部に密告しました。
彼は正義の名の下に通報しているしれませんが、彼自身も毎週マンガを転載しています。我々(鼠絵)がやっていることは確かに真っ当なことではないですが、彼のような小物に関わっている暇はありません。
『鼠絵漢化』の声明は今回の騒動に対して特に謝罪はしておらず、通報による処置も取ってペナルティも受けたと説明し、文章の大半が通報者であるlawofuekiを責める内容でした。
しかしlawofuekiは『鼠絵漢化』の声明に対して?(両者の声明がどちらも削除されているので時間軸がよくわからない)以下のようなコメントを発表しています。
『鼠絵を通報したことに対して責任を持つ。自分がしたことに後悔はしていない。』
きっかけは最近鼠絵の微博に晒されたことだ。鼠絵の原文を理解していない勝手な解釈の翻訳には前々から不満を持っていたが、これがTwitterで通報した原因じゃない。私が通報した理由は鼠絵が非常に下品だからだ。
私は以前鼠絵に属していたがそれは今回の通報と関係はない。今回の件で各所に大きな影響を与えてしまったが後悔はしていない。そして違法アップロードに関して、私が掲示板に転載していることも正規版の著作権を侵害しているだろうという指摘があるかもしれないが、私はそれを否定しない。もし今後違法アップロードで制裁を受けてもその処分を甘んじて受け入れるつもりだ。違法アップロードをする人間はみなこういう覚悟を持ってやっていると思っている。
中国という正規版と海賊版の狭間で存在している奇形的な社会が現在の状況を作り出した。私はもう掲示板での業務を辞めるつもりだ。それが自分の行為の責任である。
事態を釈明しているようで責任転嫁の態度が見え隠れし文面から真摯さが伝わらない鼠絵に比べるとlawofuekiのコメントからは騒動を引き起こした人間が持つ覚悟が感じられますが、彼が正義であると思い込むのは軽率です。事件の経過を見ると鼠絵の横暴な態度に腹を立てたlawofuekiが自爆的な行動を取ったと言えますが、私から見ると双方は同じ穴のムジナでありどちらが正しいかは判断しづらいです。
ちなみに上記のlawofuekiのコメントを載せているサイトはlawofueki贔屓で鼠絵批判を展開していて、その非常に長ったらしい文面には今回の事件で浮かび上がった鼠絵への疑惑や鼠絵の過去の所業などがつぶさに記載されていますが、公平性の面で信憑性に欠けます。
ここで取り上げられている鼠絵の問題点を紹介するのも面白そうなのですが情報の裏取り作業も含めると本当に何日かかるかわからないのでここではやりません。
私は今回の事態を単なる仲間割れとしか見えませんでしたが、双方の言い分を見ると同業他社同士の潰し合いだったことがわかりました。そして事件が大きくなった理由は以下2つの存在にあると思います。
1.翻訳組の存在
日本語のマンガを中国語に翻訳する団体のことを翻訳組、アニメやドラマに中国語の字幕を付ける団体のことを字幕組と言いますが、日本のマンガやアニメに限定すればこれらの仕事は一般的に無償のボランティアのようです。(他の海外アニメや海外ドラマも金銭が発生していないかは不明)
私は過去にマンガの翻訳をしていた中国人と2回会ったことがありますが、彼らは私の「バイト代いくらだったんです?」という問いに対して「そんなの貰うわけないじゃないですか」と驚いたように答えてくれました。
マンガやアニメ好きの中国人にとって翻訳組などはタダでも良いからやりたい仕事なのかもしれません。(しかし中国語のマンガの最新話を作るにしたって中国語に翻訳する以外にコマのセリフを中国語に修正するDTP作業もあるから全ての作業者が一銭も貰っていないということは考え難いです。まぁそういう世界だと言えばそれまでですし、ある程度以上の仕事はボランティアではない人間が担当しているかもしれません。)
lawofuekiも当初は鼠絵の翻訳組に所属していましたが、新人には人気のある作品を割り当てられないようでワンピースの翻訳には参加できなかったそうです。そして彼は個人でワンピースの最新話を翻訳して掲示板にアップするネタバレ師となりましたが、これが鼠絵の仕事内容とかぶっていますので両者は敵同士となるわけです。
lawofueki贔屓の上記サイトには鼠絵の誤訳を紹介しており、lawofuekiも鼠絵の下手くそな翻訳に怒りを覚えていたとコメントしているので、時には両者の間で喧嘩が発生したのでしょう。そして鼠絵にとってもよりによってネタバレ師に自分たちの翻訳の質が個人より劣ると指摘されると腹が立つわけで、ネタバレ師を攻撃したりネットに晒したりしたようです。
両者の険悪な関係が今回の事件を引き起こす要因の一つとなりました。
2.海賊版の存在
鼠絵とlawofueki双方のコメントを見て失笑してしまうのは双方とも自分がやっていることを悪いと思ってはいるのですが、だから海賊版業界から手を引いて償いますという結論にはならない点です。通報された鼠絵はlawofuekiだって同じことをやっていると拗ねてみせ、lawofuekiの方は「いつでも捕まる覚悟はある」と全く信用出来ないセリフを吐いています。
lawofueki贔屓の上記サイトでは鼠絵批判を繰り返していますが、鼠絵はけしからんという論調で進んでいるコメントの結論が「だから海賊版サイトの利用を止めるべきだ」とはならず、「鼠絵漢化ではなく他の海賊版サイトを見るべきだ」になっていて海賊版サイトの是非を考えることを放棄しています。そして鼠絵は翻訳などをボランティアにタダでやらせているくせに企業として儲けているのがけしからんという主張もしていますが、ここらへんはちょっと嫌儲的な考えで賛同できません。儲けているからダメ、ではなく、この行為自体がダメだと言えないと批判にはならないでしょう。
海賊版が既に文化として根付き、良質な海賊版作品を作り出して商売ができるまでに発展してしまったことで海賊版をアップロードする作業者もそれを享受する読者も海賊版がなくなるということを想像できないから今回の事件はひとつの海賊版サイトとひとりのネタバレ師の争いという形で終わりそうです。
・終わりに
2015年に『熊猫漢化』という海賊版サイトの関係者が日本で著作権違反で捕まったことで現在そのサイトではマンガの違法アップロードが行われていないことを考えると、海賊版サイトはいつなくなってもおかしくない存在ですし、「いつでも捕まる覚悟はある」と豪語したlawofuekiも実際に何らかのペナルティを受けることになるかもしれません。しかし、仮に鼠絵がなくなっても他のサイトでは相変わらず海賊版マンガはアップされ続けるでしょうし、鼠絵のように儲けたいと考えて新たに海賊版サイトを作る者も現れるかもしれません。更に、ワンピースの翻訳で有名だったlawofuekiが引退するということを受けて、今度は自分が彼のようなネタバレ師になってやると考える者もきっと出てくるでしょうし、あの海賊版サイト(ネタバレ師)が気に入らないから通報してライバルを減らす手段を取る者も現れるかもしれません。
海賊版マンガや違法アップロードは既に同好の士だけが楽しむ趣味の世界を超えて、相手より一分でも早く最新話をアップしてやろう、相手よりもっと上手く翻訳をしてやろうと鎬を削る世界と化し、遂にはライバルに特攻を仕掛けて共倒れを狙いドロドロの内情をさらす仁義なき戦いの世界へと突入しました。ですが読者側からすれば今後も中国語版をアップしてくれれば誰でも良いので、今回のような共倒れは二度と起きないで欲しいと言ったところでしょう。ですので今回のような騒動は決して海賊版根絶には繋がらないと思いました。