いま日本では『イキガミ』という漫画が星新一の『生活維持省』の盗作ではないかという問題で賑わっていますが、誰も『金剛番長』と『鋼鉄番長の密室』の酷似を指摘する人はいません。
『鋼鉄番長の密室』とは月刊少年ガンガンで連載されていたミステリ漫画『スパイラル』の オリジナルノベルです。戦後に勃発した『番長戦国時代』に君臨した鋼鉄番長の突然の死を現代に生きる主人公が解くという破天荒なストーリーなんですが、鋼鉄番長の他にも流星番長、ピストル番長、魔法番長、ナパーム番長やナイフ番長などの頭が痛くなる名前が大勢出てきます。しかし設定は馬鹿でも伏線の張り方 や推理のロジックさはきちんとしていて、推理小説として一読の価値がある本です。
こちらの方のサイトであらすじが述べられています。原作を知っていないとわからない会話かもしれませんが、対談方式なのでスラスラと頭に入ると思います。
また、この方はスパイラル原作者城平京先生の特技というか癖をピタリと言い当てていると思います。(ちなみにこの城平先生はデビュー作『名探偵に薔薇を』で実在しない架空の毒薬『小人地獄』を中心に据えたミステリを展開させた)
『金剛番長』と 言えばいまサンデーで人気を誇る番長漫画です。番長による日本支配を阻止するために金剛番長と呼ばれる破格の肉体を持つ主人公が、坊主の格好をした念仏番長、日本刀を持っている居合番長、ひたすら卑怯な卑怯番長、機械的な言動が目立つマシン番長などと戦います。倒された番長が主人公の男気に惚れて仲間にな るあたりに往年の少年漫画らしさを感じさせる傑作です。
詳しくはこちらの方のサイトを御覧下さい。スポーツ漫画の旗手鈴木央先生が描いたギャグあり熱血あり友情ありの漫画は単なるトンデモではありません。
こうしてあらすじを書いてみますと番長たちがやっていることや番長の名前に類似点が見られます。
しかし決定的に違う部分があります。
『鋼鉄番長の密室』に出てくる番長たちはあくまでも過去の人であり、実際には誰一人として番長が出ていないという点です。
更に『金剛番長』は漫画的過ぎるので、どちらかと言えば『男塾』などの学生格闘漫画の派生として見るべきかも知れません。そして『鋼鉄番長の密室』こそ推理小説に少年漫画的な要素をメタ的に取り上げたとして疑われる恐れもあるのです。
こうやって検証しても相似点が見つかるだけで『金剛番長』の作者鈴木央先生が『鋼鉄番長の密室』を真似は断言できません。しかし本を読んでいないとは言えない内容でもあるんです。
それで本題なんですけど、もし鈴木先生が『鋼鉄番長の密室』から創作意欲を得ていたとすれば、先生は一体なんて言うべきなんでしょうか。
『イキガミ』の作者と出版社の小学館は『生活維持省』など読んだことがないと、盗作疑惑を一蹴しています。
しかし思うんですが、作品を作るときにはあらかじめ過去の作品に目を通してそれよりも面白いものを作ろうとするのが普通です。だから、先人の名作に触れていないということは盗作よりも恥ずかしいことで、言い訳にすらなっていないと思います。
では、もし盗作疑惑が本当だったら『イキガミ』の作者は何というべきだったんでしょうか。堂々と「盗作した」と言うのもつまらないですし、今回の件はもちょっと無理がある気もするので、このような牽強付会の意見を認めるのもしゃくです。
それでボクは思うのですが、作者の間瀬元明氏は「『バトルロワイヤル』からパクった」って言えば良かったんじゃないでしょうか。そしたら矛先は間違いなくそっちに向かいますから、もう泥沼間違い無しです。
もしくは、今回の騒動の発端がにあるわけですから『銀齢の果て』って言うのもありだったと思います。これだったら盗作問題に関する筒井先生の意見も聞けるわけですし。
作品が盗作か否かは第三者の検証で限りなく真実にたどり着けますが、当事者でないと証明できないケースの方が多いです。そこで疑念をかけられた作者は二択に 迫られます。しかし盗作を認めるとしても自分で考えたネタまで盗作の対象にはしたくない。と言うより、なんでコイツが何もお咎め無しで自分が名指しされな きゃいけないんだ。そもそも盗作云々に触れるのは創作面の不文律なんじゃないのか。
そのような不満が大概の盗作問題がこじれる原因なんじゃないでしょうか。
だから盗作問題に対する一番良い回答は、ジョークで応えて周りに火の粉が広がるようにするのが一番なんじゃないでしょうかね。
しかし少年漫画にはそのようなアイロニカルなやり取りはいりません。鈴木先生がもし城平先生からインスピレーションを受けていたとしたら、問題が著作権訴訟云々まで発展する前に(そのようなことは絶対ないと思いますが)手を打つか、それか「知ったことかぁーー!」と開き直って、問題をギャグ化してほしいです。