Salome 七重紗舞 著:E伯爵
中国のミステリ評論家・華斯比が2014年度中国サスペンス小説第5位に選んだ本作をとうとう積ん読から救い出して読んでみたのだが、「うーん…」という感想しか出ない微妙な内容だった。
舞台はアメリカのニューヨーク。アジア系アメリカ人の刑事アレックス・リーは新約聖書の『サロメ』を模した猟奇的連続殺人事件を担当することになる。大学教授のモリス・ノルマンの助力で犯人が同性愛者の男で、とあるキリスト教組織の構成員をターゲットにしていることがわかるが警察の一枚上を行く犯人の凶行は終わることなくついにはアレックス・リー自身にも魔の手が及ぶ。そして彼は自身も同性愛者だと公言するモリスに疑惑の眼差しを向ける。
いわゆる翻訳ミステリ風の小説。モリスが事件の鍵を握っているんだなというのは容易に予想がついたが、なにせ後半まで犯人の具体的な人物像が全く出てこないのでこのままモリスが真犯人だったらどうしようという不安が常に付きまとう内容だった。ただ、モリスの過去の秘密についてスマートに伏線を張っていて、こういう自然な伏線の張り方には年季を感じさせられた。
また本作でもE伯爵の十八番である読者の想像力を煽る耽美的な設定があり、モリスが別の意味でアレックス・リーを狙っているんじゃないかという番外的なサスペンスも見どころの一つだ。
ただし小説としてはあまり面白くはなかった。犯罪と聖書を絡めたり、同性愛差別や児童虐待などの社会問題を組み入れたり、いかにもアメリカ『らしく』仕上げてきたなというのが第一印象だが、じゃあアメリカドラマと一体何が違うんだと言えば特に目新しい点はないように見えた。
実はこの作品の初出は2007年らしく、ならばその時期にアメリカドラマと遜色のない長編を書き上げたことは見事としか言えないが、2014年にわざわざ再評価するような作品かと言えばそれも違う。
この本、読んでいる時にやけに気になったのが地の文でのアレックス・リーの三人称だ。本名の「アレックス・リー」の他に「黒髪の男」とか「黒髪の刑事」などの名称で呼ばれているのだが、この使い分けがいまいち理解できなかった。読者がアレックス・リーの外見を忘れないようにという配慮なのか?
あまりにも「黒髪黒髪」うるさいので、実はアレックス・リーの隣にもう一人アジア系の人間がいてそいつが犯人だという叙述トリックなんじゃないかと疑ったがそんなことはなかった。このくどさで翻訳ミステリっぽさでも出しているのだろうか。