中国のアガサ・クリスティの異名を持ち、登場人物の心理描写や人情的なストーリー展開に定評のある鬼馬星の『酷法医』(クールな法医学者)シリーズの最新作だ。法医学者の谷平が15年前の大量殺人事件の容疑者となった同僚の女刑事のピンチを救う。
表紙右下の写真の男が福山雅治っぽいんだが湯川教授って法医学者だっけ?
育ての親の遺言に従って指定された場所で人に会おうとしたら生き別れの弟の変死を思いがけず知ってしまい、更に両者の死と十数年前に起きた実の家族を巻き込んだ大量殺人事件を結び付けられて連続殺人犯として疑われてしまった女刑事のピンチと捜査を法医学者の谷平がサポートする内容で、主人公の谷平が積極的に行動する中心人物にならないストーリー展開はシリーズ1作目『木錫鎮』とは変わっていない。
ストーリーは女刑事の沈異書を中心に展開するが、育ての親と生き別れの弟の謎の死、元夫の再婚相手の不可解な失踪、そして少女時代に巻き込まれた大量殺人事件など重要な謎が時代別、地域別に散見しておりどこに注目すれば良いのかと読者を迷わせる。
だが各事件に彼女の育ての親である心理学者の李殊楊の存在を当てはまるとようやくピントが合う。全ての事件に死者を絡ませて解決させる手法はやや強引に見えるが、終始存在を匂わせているのでアンフェアではないし、既に死んでいて動けない登場人物の存在感を各章の独白パートのみで際立たせているのはさすが鬼馬星で、違和感を覚えさせず白を黒に変えてしまっている。
しかし『虫屋』というタイトルはいただけない。大量殺人事件があった旅館で死体の一つが無数の虫に食われており、真犯人が意図して虫を放ったのはわかるが死体処理の仕方としてはあまりに雑なのに死体を食う埋蔵虫(シデムシ)をちゃんと用意するというアンバランスな計画は作品の謎の一角となっているが、大量殺人事件より魅力があるかと疑問が残る。
ミステリ小説では注目を集められないから『虫屋』というグロテスクなタイトルにしてサスペンスやホラー小説として売りに出そうという打算が見えるのだが気のせいだろうか。なんていうかこのタイトルに推理小説のジャンルの吸引力の弱さを感じてしまう。
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(第1章まで本作を無料で読めます。)