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プロフィール
HN:
栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
41
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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 中国ミステリでハズレを引きたくなかったら、台湾か香港の作品を読めばいい。台湾人推理小説家林斯諺の新作『芭提雅血呪』(パタヤ 血の呪い)はその信頼に応えてくれた。まぁ新作と言ってもそれは中国大陸でのことであって、台湾での初出は2010年だからあくまでも簡体字版に限った話である。

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 タイのパタヤにあるホテルで人体消失事件が発生する。被害者はホテルの一室で謎の炎に体を焼かれて屋外のプールに転落、死体も上がらずにそのまま行方不明になった。そしてその噂も無くならないうちに台湾からやってきた観光客団体の一人、陳善駿が事件のあった部屋で全く同じ事態に見舞われ、観光客仲間の目の前から姿を消した。
 
 これだけなら外国で起きた単なる怪奇現象で済んだのだが、後日その団体メンバーで写真家の沈昭鵬が台湾の自宅で殺害されたことが両国の事件を繋ぐことになる。心霊写真マニアの沈昭鵬はタイで陳善駿が自室で炎に包まれてプールに落下する瞬間を写真に収めていたのだが、彼の部屋からそのネガが消えていたのだ。
 
 台湾警察に事件の解決を頼まれた探偵の林若平はついに現地パタヤに乗り込む。そこで彼を待っていたのは知人で探偵の日本人阪井誠司だった。2人の調査により沈昭鵬は陳善駿消失事件の核心に触れる写真を撮っていたため命を狙われていたことがわかる。そして真犯人の魔の手は2人にも迫っていた。
 
 


 林斯諺の小説ではお馴染みの大学の助教授(原文では助理教授)兼名探偵の林若平が出てくるだけではなく、前作『霧影荘殺人事件』に登場した日本人の探偵阪井誠司も出てくるのは単なる読者サービスにとどまらない。特に真犯人が阪井誠司が日本人であることを利用して林若平をおびき寄せるあたりは、反日デモを経験した今になって読むとなるほど効果的だなと実感できる。

 
 人体消失事件のトリックは勘の良い読者なら予想がつくだろうし、作中で明かされてもさして衝撃はないのだが、本作の見所はトリックではなく林若平が幾人もの参考人から話を聴きだしてその矛盾点を取り上げて徐々に真犯人へ迫っていくところだろう。ページに図形を描かないと理解できないほどの複雑なトリックは出ないが、各人の証言のおかしなところを照らし合わせて事件の全体像を把握し、極めて論理的に犯人を導き出すだけではなく、更にその犯人の証言をもとに新たな犯人にたどり着き、事件の真相へ着実に近づいていく点において本書は林斯諺作品の中でも簡単そうに見えて構成が非常にしっかりしている。
 
 林若平たちを悩ませた沈昭鵬のダイイングメッセージが最後の最後でようやく明かされるが、そのあまりにも呆気無い真相が物語にオチをつけてくれる。
 
 また作中で紹介されたタイに伝わる『鬼妻』(幽霊女房)の話なんか、一読するとどこの『るるぶ』だよと疑ったが、このエピソードも本作の事件に深みをもたせる要素となっており、何故本作はタイが舞台に選ばれたのかという疑問に答えてくれる。

 序文で中国大陸の推理小説家杜撰が述べているように、トリックはともかくとしてストーリーの背景と犯人の動機は舞台と密接に関係しており、タイだからこそ成立する推理小説として本作はトラベルミステリのジャンルにも当てはまる。
 

 トリックも取り立てて難解ではなくストーリー展開も決して派手ではないが、最後の1ページまで読者を楽しませようという推理小説家としての林斯諺の愛と努力が見て取れる傑作である。
 
 
 さて本書は2010年に出版された『芭達雅血呪』の簡体字版である。『パタヤ』という言葉が何故繁体字版では芭達雅で、簡体字版では芭提雅になるのかわからないが、本書にはそれ以上に不可解なことがある。それは『台湾』という単語が軒並み『中国台湾』で統一されている点だ。
 原著である『芭達雅血呪』が手に入れられず試し読みサイトで調べただけなのだが、繁体字版は『台湾』のみの表記であるらしい。
 
 タイトルや地の文だけならともかく、台湾人である登場人物の口からまで『中国台湾』と言う言葉が出るのはエライ不自然である。台湾の書籍を中国大陸で出版させるための規定があるのか知らないし、用語統一の面ではむしろ正しいことなのだが、この『修正』のおかげで作者の意図しないところで読者に政治を気にさせる作品となった。
 
 しかし杜撰の序文では手が加えられていないようで『台湾』表記のままだ。おそらく本文のみWordの置換機能で一括変換されたのだろう。じゃあ別に修正しなくて良かったんじゃ…と思わずにはいられないが、もともと『推理世界』に掲載した作品を書籍化したものなので、その時点で注意が入ったのかもしれない。繁体字を簡体字にするだけなのに、色々と理解し難い規則がありそうだ。

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