久々に読んでいてワクワクする中国ミステリに出会った。
作者プロフィールに『東野圭吾の作品に引けをとらない』とすごい地雷臭を放つ一文が書かれていたというのにまさかの大当たりだ。ただし中国で東野圭吾を引き合いに出す作品が多いことは事実なので、これを機に東野圭吾の名前を冠する中国人作家をまとめてみる必要がある。
数年前から連続殺人事件が発生している土地で5件目の事件が起きる。一連の事件では被害者の口には利群(中国のタバコの銘柄)のタバコが詰められ、指紋が付いたままの凶器は放置され、更には警察を挑発するような『請来抓我』(捕まえてください)というメモが残っているのに、趙鉄民ら公安は一向に犯人を捕まえられないでいた。
そんな物騒な土地で食堂の看板娘朱慧如が正当防衛でチンピラを殺害してしまう。彼女に片思いする郭羽が身代わりになろうとするが、その場に偶然居合わせた元法医学者の駱聞が二人のためにアリバイを作り彼らを守ろうとする。
駱聞によって捏造された事件現場から出た数々の物証は全て朱慧如たちが犯人ではないことを示し、二人も駱聞から教えられた通りの証言をすることで警察の目を完全に欺けていた。そして事件現場の遺留品から連続殺人事件の犯人と同じ指紋が出たことが極めつけとなり、二人は捜査線上から外される。
だが事件に興味を持った元公安のエリート刑事で数学教師の厳良は影に専門知識を持った公安関係者がいることを推理し、偶然街で駱聞を見かけたことで疑惑を深めていった。
作者プロフィールも相まって『容疑者Xの献身』を思い起こさずにはいられない展開に中盤までは別の意味でハラハラさせられたが、最後には連続殺人犯が何故毎回あれほどの証拠を残しているのか、逆に考えたら何故そればかりしか残していないのか、そして駱聞が何故若者たちを庇ったのかなどの動機が一挙にわかる怒涛の展開が用意されており、またその動機も驚異的かつ非常に納得できる内容だったので、『容疑者Xの献身』のパクリの評価を下すのはまさに早計だった。
まさか作者プロフィールにミスリードさせられるとは思わなかった。
むしろ本作は『容疑者Xの献身』を読んでいてこそ楽しめるとも言え、元法医学者という偉い肩書を持つ駱聞が証拠捏造という危ない橋を渡る理由を推理するのも読み方の一つなんだが、読んでる最中に『容疑者Xの献身』が頭をよぎってしまい、やはりこれも善意からくる無償の献身だろうと考えていると最後にはとんだ裏切りにあって予想が甘かったことを知らされる。
中国人は合理的だなぁ(偏見)と久々に実感させられた。
駱聞と厳良がともに元公安関係者でありながら事件のせいで対立関係にあるのも本作の見所で、両者ともに公安から離れているから自由であり、そして昔の経験と知識を活かした行動を取れるから公安法制小説でありながらも従来にはない軽妙さが加わっており、非常に読みやすく仕上がっている。
何故かアマゾンと豆瓣で評価が二分されているが、中国語を読める人にはぜひとも読んでほしい一作だった。