淑女之家 著:鬼馬星
2015年から『推理世界』に連載されていたので新作かと思って購入したところ、本自体は2009年が初版だった。どうも2014年にテレビドラマが放映されたことを期に雑誌連載されたようで、私が購入した本も2015年出版の再販版だった。
本作は『暮眼蝶』や『紐扣殺人案』の主人公である記者の簡東平とその恋人で警察官の凌戈が登場するシリーズの第三作目です。
知人の女性ルポライター周瑾が音信不通になり心配した簡東平は凌戈に彼女の行方を調べてもらう。すると、周瑾という名前は偽名で住所も全くのデタラメだったことがわかり、更に通話記録から最後に電話した人物が最近自宅で殺されていたが判明し、周瑾が何らかの事件に巻き込まれていると考えた簡東平は被害者の蘇志文の家へと向かう。その家は沈碧雲という初老の女主人が管理する豪邸で、蘇志文は彼女の4人目となる22歳年下の夫だった。そして周瑾の足取りを追う簡東平は彼女の私物から沈碧雲の自伝『淑女之家』を見つける。いったい周瑾と沈碧雲の関係は?
普通のサスペンス小説ならこれまで4人中3人の夫が死んでいる沈碧雲を重要人物として描くのでしょうが、ここには常に周瑾という正体も目的も居場所もわからない女が中心におり、彼女の素性を暴くことが最大の目的になっています。簡東平の地道な調査によって周瑾の素顔が徐々に明らかになってくる過程は宮部みゆきの『火車』っぽいなと思いましたが、怪しい要素満杯の沈碧雲が物語に全然絡んでこないのはミスリードというか肩透かしにしか思えず、全体的に展開は地味でした。
本作の見所はむしろサスペンス部分にはないかもしれません。本筋に鬼馬星特有の恋愛要素があり、本作は物語冒頭で別れる簡東平と凌戈が事件を通じてよりを戻すまでを描いていると紹介しても良いかもしれません。
鬼馬星の作品はこの恋愛要素を楽しめないと正式に評価できない気がします。