軒弦といえば神出鬼没の名探偵・慕容思炫シリーズが有名だが本作では女と見紛うほど美しい美少年・葉泫然が活躍する。いわば軒弦の新しいシリーズなのだが時代が10年以上前の2000年代に設定されているし、ライバルのような天才犯罪者も1話しか登場しなくて消化不良だし、何故今更こんな本が出版されたのかわからず、謎が拭いきれない一冊だった。
収録作品は三つ。孤島を舞台にした『天極島謀殺檔案』、山荘の復讐劇『李氏山荘謀殺檔案』、学生恋愛から発展する殺人事件『QQ亡霊謀殺檔案』、そのどれにも密室殺人が使われている。よくもまぁ密室殺人の手法がポンポン浮かぶなと感心するが、あまりに多くの作品を書いているため粗製濫造の感が否めない。
特に3つ目の『QQ亡霊謀殺檔案』にはその感覚を強く抱いた。これは、自殺した彼女と毎晩QQ(中国版メッセンジャー)でチャットをするというホラー小説的な切り口から人間関係が極端に発展して密室殺人事件に至るという話なのだが、この死んだ彼女からQQで連絡が来るという点はまさに2016年6月に出版された『神探慕容思炫・審判』にある『QQ神秘事件』とそっくりなのである。その理由こそ異なっていたが短期間で同じネタを使った作品を読んでしまうと読者としては芸がないなと思ってしまうのも無理はない。ただし軒弦は多作過ぎて、例え新刊であってもその収録作品が以前書いてようやく単行本として出たというパターンが多いから、二作の執筆時期は離れているかもしれない。
注:作者軒弦によると本書に収録されている作品はみな2004年に書いたものらしい。中国の本って初出書いてないからなぁ…
また、本作の時代設定も何故わざわざ過去に設定しているのか意味がわからなかった。各話の冒頭にわざわざ「2002年2月9日」など日時を書いているのだからきっと意味があるのだろうが、それは本書を読む限りわからない。誰もが少女と見間違える美少年・葉泫然も2016年現在は30歳過ぎの中年という事実をもって作者は何を伝えたいのだろうか。
あと、軒弦は慕容思炫シリーズの中で怪盗やら天才犯罪者やら多くのキャラを生み出し、本作でも遊一悔という『金田一少年の事件簿』で言う高遠遙一キャラが出てくるのだが今現在どういう状況になっているのかわからないので、一度年表及び人物相関図を作ってまとめてほしい。