大学入試を控えた高校の教員寮で教師が殺されるという学園モノなのかよくわからないジャンルのミステリ。表紙にデカデカと描かれている『2』はタイトルに含まないらしい。
高校の教員寮で物理教師の徐玉階が首無し死体で発見される。この高校の卒業生である若手刑事の寧微君は恩師である魏書平にかけられた嫌疑を晴らそうと躍起になるが、現場主義のロートル刑事・胡宏斌に水を差されたり窘められたりで活躍できない。事件当時の夜に校内にいたミステリ小説好きの女子生徒・易雨晨、捜査に首を突っ込んでくる探偵ぶった男子生徒の林昱が事件にどう絡んでくるのか。それは徐玉階の本性を知ったあとに明らかになってくる。
中国ミステリでもキザで自信満々な探偵と常識人の助手、突飛な行動を取る探偵とそれに振り回される刑事など探偵が優勢の組み合わせはいくらでもあるが、経験豊富で頑固な老刑事と若さとやる気と知識だけはあるミステリ小説好きの若手刑事という本書のような組み合わせは新鮮だった。
読み始めたときは胡宏斌がずいぶん横暴な中年に見えたが、読み進めていくと上司に減らず口を叩き、上司をおじさん(大叔)と呼び、捜査に私情を挟み若さ故の暴走をする寧微君の方がよっぽど厄介者に思えてくる。そして同類であるミステリ小説好きの林昱を寧微君が煙たがり、高校生の名推理を前にして自身が胡宏斌から言われた「現実と小説は違う」というセリフを吐くのは本当に面白い。
途中で林昱が寧微君に犯人が首無し死体を作った謎に対し8つの説を唱えるが、これが読者に事件を整理させる良い中間地点になっている。何故犯人は調べたらすぐに身元がわかる状態の死体からわざわざ頭を持ち去ったのかという謎に対し、本当の死亡理由を隠すためだという林昱の答えは納得できるものだが、本書を最後まで読むとそれが単なる読者サービスではないことに気付かされる。
タイトルに『悪意』とあるように本書には徐玉階を始めとする人間の生理的嫌悪感に基づく気持ち悪さが描かれている。特に作者はきっと意図していないだろうが易雨晨の父親なんかには山本英夫の『新・のぞき屋』の父親を思わせる独善的なおぞましさすら覚えた。
作者の胡正欣は昔は「Kenshin」や「寧夜」というペンネームで活動していたそうだが、昔作品を読んだことがあるだろうか。本書が初の長編作品だと聞くが、初めてでトリックも人間模様もこれほどのものを書いているのであれば次作もきっと面白いだろう。できれば胡宏斌と寧微君のような一筋縄ではいかないコンビを再び出して欲しい。