SFミステリーという触れ込みの短編集だったが、どの作品も冒頭や展開はSF小説のように現実離れしているが、実はどの謎も論理で解決できるという内容で、これをSFミステリーの括りに入れるのは違う気がする。そういう期待はずれを味わったものの、作品自体はどれも面白かった。
誰もいないはずの島で見つかった「4日後」の新聞通りに1人ずつ殺されていく『未来の島』。他人が経験したことを自分の体験のように覚えている女性の、幼少時と大学時代の思い出に迫る『魂交換体験』。ある女子学生が何者かに殺される1日を繰り返すという内容の物語をめぐり、学生たちがその犯人、そして女子学生の秘密を討論する『繰り返し続ける1日』。ある田舎で起きたUFO発見事件と、過去から来たと主張する女性の接点を探る『過去から来た人と消えたUFO』。2030年の未来、人間そっくりのロボットの実験として、人間に紛れたロボットを見つける「人狼ゲーム」を行う中で殺人事件が起きてしまう『探偵テーブルゲーム会議』。人狼ゲーム参加者たちの素性が明らかになる『演技者ゲーム』。
物語は舞台もスタイルも違うのでそれぞれ独立した内容のように読めるが、探偵役として登場する方原によって作品がリンクしており、表題作の『演技者ゲーム』はその彼を巡る話となっている。ここでは全部の話の紹介はしないが、6作品のうちで自分が一番面白いと感じ、また中国のレビューサイトでも評価が高いのは『繰り返し続ける1日』だ。
女子学生が今どき珍しい目覚まし時計で起きる朝から始まる1日の物語。彼女は起きてから友達と学食で飯を食い、彼氏と別れ話をし、それから何者かに殺されるという1日を何度も繰り返す。運命から逃れるために行動を変えてみるが、それでも殺される運命から逃れられない。
本書3作目にしてとうとうSFというか「少し不思議な話」になるかと思ったら、それは作中人物の創作話であり、本題は彼女を殺したのは誰かを話し合うということ。学生たちが動機や見えない犯人について語る中、方原は話の中で浮かぶ彼女自身の変わった点に注目。彼女の「正体」の隠し方や判明する指摘がとても上手な叙述トリックで、読んでからしばらくは「どっかの海外作品のオマージュなんじゃないか」と失礼な疑いを抱いてしまった。
以下ネタバレ。
方原は、彼女が日常生活で視覚よりも聴覚に頼っていること、語られた物語の中で「看(見る)」という単語が全く登場しないことから、彼女は目が見えない人物と指摘し、なぜこうも毎回簡単に殺されてしまうのかを説く。この創作話は三人称視点だが、「彼女が……を見た」という文章が排除されており、作中作という方法で作中の人物と実際の読者を騙している。
五感の描写を書かないことで読者に正体を隠す(明かす)手法は、多分調べたらたくさんの作品が見つかるんだろうが、読者どころか作中の人物すら騙している展開にはワクワクさせられた(もちろん物語に登場する彼女の友人は、みな彼女が目が見えないことを知っている)。そして、なぜ作中でこの物語が語られたのかという理由も分かり、作中作にこれでもかと謎の解決シーンを詰め込んでいる。短編集を全体的に評価すると、前提がSF的なため、論理で解決しようとした結果、牽強付会になっている感が否めないが、フィクションに逃げずに推理で挑んでいる姿勢は評価したい。