前回 の『東南地区ミステリー作品応募大会』の告知文で作品の応募とは別にお金を募集する文言があり、表示されているリンクを辿ると興味深いページヘと飛んだ。それが『追夢網』である。
見つけた当初は中国にこんなサイトがあったのかと感心したのだが、創設は2011年らしいので今更紹介するようなページでもないだろう。名前に『夢』なんて入れているから『中国夢』にかこつけた比較的新しいサイトと勘違いしてしまった。
有り体に言えばこのサイトは中国のクラウドファンディングサイトだ。
『東南地区ミステリー作品応募大会』を企画する東南地区ミス研聯盟はここで大会の賞金及び入選作品を発行する際に必要な印刷費などの出資金を募り、出資者に対し金額ごとにそれなりの見返りを用意している。最低金額29元なら刊行物の電子書籍版など、最高金額299元ならば刊行物、審査員のサイン入り書籍など最大で8点の特典を贈呈するといった感じである。
『追夢網』で資金の使い道の詳しい内訳が書かれている。
東南地区ミステリー作品応募大会 資金調達告知ページ
http://www.dreamore.com/projects/13371.html?from=Projects_index
大会の賞金金額が1位1,000元、2位800元、3位500元で、各入選作品に送るプレゼントの総額400元、そして優秀作品を刊行した場合にかかる印刷費が2,300元の合計5,000元が本大会にかかる必要経費らしい。(2位は2名、3位は3名なので更に1,800元が必要になると思うのだが…)
書籍の作成及び発行はデザイナーと推理雑誌社(歳月推理、推理世界を発行している会社)に依頼するので、それら人件費を含めた金額が5,000元なのだろう。しかし、果たしてこの大会及び優勝作品の発行に外部から資金を募るほどの価値はあるのだろうか。
前回『北京高校推理聯盟 第1回ミステリー作品大会』では優秀作品の出版も予定されていたが結局叶わなかったのは、出版に値する作品が1作もなかったからだ。だから東南地区のミス研が自費出版の道を選んだ気持はわからないでもない。だが、まだ作品すらできておらずどのような本に仕上がるのかわからない現時点で他人に資金提供を求めていいのだろうか。
そして印刷費以外に募集している各賞金だが、主催者であるミス研聯盟は作品を投稿する参加者でもあるから、結局のところ出資金の半分は彼らの懐に入るだけなのでは?と疑念が生じる。
賞金ぐらいはスポンサーを募って何とか捻出できなかったのかと不思議に思ったが、第2回北京地区大会及び第1回東南地区大会では現時点で企業等のスポンサーは皆無だ。そもそも第1回北京大会には新星出版社の編集者が出席していたから彼らが賞金などを出してくれたと勝手に思い込んでいたが、実際は不明だ。
『追夢網』では他にアーティストの卵、海外ボランティア、ネットで人気を博した小説の映画化プロジェクトなどが資金を求めているが、それらに比べて『東南地区ミステリー作品応募大会』の計画は見返りも含めて内容がかなり甘い。
プロジェクトに興味を持って出資したいヤツだけ金を出せば良いクラウドファンディングの活動に甘いとかの駄目だとか言うのは間違っているだろうが、5,000元集まらない場合、大会自体が実施されるのだろうかと考えると、今の時点で500元程度しか集まっていない現状を放ってはおけない。
とりあえず、スポンサー集めをせずにクラウドファンディングの手段に頼り資金集めをする以上はもっとこれを活用してほしい。『追夢網』には出資者一覧が見られるページがあるのだから、印刷を担当する推理雑誌社や審査員に選ばれた推理小説家に資金出資者になってもらい、一覧に名前を上げることで他の人が出資しやすい空気を作るのもありだろう。
業界の人間が特定のイベントにのみ資金提供するのは今後角が立つかもしれない。だが主に大学生を対象にしているこのイベントでは資金集めは困難だろう。
知名度も実績も商品の見本すらない彼らがまだ存在していない自信作を取引材料に他人に出資を募るその行動は理解できない。
しかし、根拠の無い自信から5,000元という決して簡単ではないリミットを設けるその傲慢ぶりは嫌いじゃないし、学生の卒業アルバム製作を傍らで眺めているようで、彼らを否定しきれずについつい応援したくなってしまう。
主催者側のミス研聯盟は即ち投稿者側でもあるので、資金調達が達成すればプレッシャーがかかって執筆活動に発破がかかるかもしれない。だから、私個人としてはこういう活動は反対なのだが、中国ミステリ発展のために出資するのはありなのかもしれない。