(中略)
全9巻の《ホームズ全集・図解本》は沈丁華、秦白桜、興仲華らを翻訳者に置き、劉臻が注釈者となっている。出版社によるとこの全集は《最も権威ある翻訳本で……最も正確で流暢な翻訳》であり、また劉氏は『国内1のホームズ研究科』を名乗り、《2,000余りの注釈は……ホームズの一切の謎を余すところ無く解読している》と言い表している。このキャッチコピーを読むと580元という定価も納得だ。とりわけこの《2,000余りの注釈》という言葉には、国内で出回っているその他の版本が色褪せてしまうだろう。
(中略)
国内に目を向けると、李欧梵の考証によればホームズものは1896年に【英包探勘盗秘約案】(注:英包はイギリスの“包公”の意味か)という名前で梁啓超が刊行する《時務報》で3期に渡って連載された。だが、今日までホームズ研究ブームというものは起こっていない。
もし新星出版社のキャッチコピーが事実ならば、劉臻氏は『国内1のホームズ研究家』とは言えないだろう。厳密に言えば、我が国にはこれまで『ホームズ研究家』などは存在していない。ただ、このようなやり方には粛然とした気分にさせられる。だがこの《ホームズ全集》を手にとったあと、尊敬の念は軽蔑へと変わった。《全集》のほとんどの注釈がレスリー・S・クリンガーの【The New Annotared Sherlock Holmes】からの盗用だったのだ。それらを一つ一つ挙げることはできないので、【ボヘミアの醜聞】を例に取り劉臻氏の盗用問題が如何に重大なのかを説明する。
(以下略)
このあと陳一白氏はクリンガーの英文の注釈と劉臻の中国語注釈を比較して、その2つが酷似していることは一目瞭然であると指摘する。そして劉臻に対して、もしこの注釈文が自分で書いたものであるのならば、ここで取り上げている100年以上前の資料の数々をどうやって見たのか、まさかイギリスやアメリカにまで行ったのか?と素朴な疑問を投げかけている。
更に盗用問題の確固たる証拠としてクリンガーの注釈の誤表記に言及する。
【ボヘミアの醜聞】に登場するランガムホテルは1865年6月10日にオープンしているが、何故かクリンガーは1863年6月12日オープンと誤った日付を記載している。
そして陳一白は、劉臻も同様の間違いを犯しているが、彼はランガムホテルの公式サイトを見なかったのか?と理解に苦しんでいる。
それ以外にも劉臻の盗用の証拠を列挙した陳一白はコラムの最後をこう締めくくる。
新星出版社については、中国国際出版集団の一員として、また海外書籍を大量に出版している会社として、大胆にもレスリー・S・クリンガーとアメリカノートン出版社(原文は美国諾頓出版公司)の著作権を大胆にも侵害した今後はどのように版権代理団体と付き合っていくつもりなのだろうか。この件を知ったクリンガー氏はおそらく訴訟を検討するだろうが、それにはどう対応するのだろう。
さて、英語がわからない私は、コラムに載せられたクリンガーの注釈の原文と劉臻の注釈を厳密に比較することができません。ただし、パッと見比べてみたら確かに似ている気がします。
他人の書いた注釈を参考にして自分なりの注釈を付ける場合を除き、研究の結晶である注釈というものは、たとえその引用元を明らかにしていても、そのまま使ってはアウトでしょう。
陳一白の批判だけを聞くと劉臻の盗用疑惑は非常に濃厚ですが、劉臻が偶然クリンガーと同じ資料を参考にしている可能性が捨て切れません。
さて、真相はどうなのでしょうか。次回は劉臻の反論、そして新星出版社と劉臻の泥仕合をお伝えします。
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