札幌ステラプレイス6階レストランコートにある『自然食バイキング 菜蒔季』は野菜を使った料理を中心にしたビュッフェスタイルのレストランで、昼ごろには平日であっても店外に婦人たちの列ができるほどの人気店だ。
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1月9日の昼、特に食べたいと思うものはなく、しかし連日の暴飲暴食のせいで胃もたれを起こしていた体にとって健康にいい料理はうってつけだった。そこで去年もちょうどこの時期に食べに行ったことがある菜蒔季に行ったのだった。
12時を過ぎていたがレストランコートの多くの店は行列が作られていたが、中でも菜蒔季は圧倒的に女性が多かった。その中で男一人だけ並ぶのは多少気が引けたが、女性の年齢層が高めということもあり居心地の悪さは覚えなかった。
20分ほど小説を読みながら待っているとようやく椅子とソファの2人掛けの席に通される。店内はやはり大半が主婦で、一人で座っているのは私ぐらいだった。そして店員から本店の特色の説明を受けて一人だけのバイキングが始まった。
この店のお皿は丸い大皿と9つの窪みがある四角形のお皿の2種類がある。
健康食をウリにしているこの店は豊富なメニューも客を惹きつける特色となっており、普通の大皿を使ったのでは全てを味わうことは不可能だろう。
しかしこの四角形のお皿は窪みごとにメニューを入れることが可能で、1枚で最大9品の料理を楽しむことができる。体に良い野菜中心の料理を少量かつバランスよく配分することが可能なのだ。
要するに四角形のお皿は1枚のお皿でありながら、9つの小鉢だった。
とりあえず私はそのお皿にふろふき大根、カボチャのヨーグルト和え、ひじきの煮物、根菜のアヒージョ、ローストビーフ、炒飯などを盛ったがすぐに平らげてしまった。そして第二陣に出ようかというところで、隣のテーブルに女性が一人座ったことに気づいた。私同様ソファを背にしており、店員の説明は聞かずすぐにフードコーナーへ向かった。
男一人と女一人、この店ではどっちが浮いた存在になるだろう。女性層が厚い分、女性の一人飯は逆に人目に付きそうだった。
今度は大皿にパスタやニョッキなどの主食を盛った私が帰って来ると、ほどなくして女性は9つの小鉢皿を持ってきたが、それをテーブルに置くとまたフードコーナーへと行った。そして再び戻ってきた彼女は白い大皿を手にしていた。そこで私はとうとう気がついた。
彼女は、白い大皿に炒飯やグラタンなどの主食を盛り、四角形のお皿には副菜のみを9品詰め込んでいたのだ。しかも私がそのまま食べた炒飯にはほうれん草の餡が掛けられ、黄色い卵炒飯と緑色のソースが食欲をそそる色合いを放っていた。
対する私は前回、小鉢に主食も副菜も適当に詰めるという節操の無さを見せ、更に第二陣の白い大皿ではニョッキのスープと鶏団子のトマト煮のソースを混ぜてしまうだけではなく、その他に盛った雑穀米を汁でビショビショにさせていた。
2種類のお皿を見事に扱ってみせる彼女はきっとバイキングのプロに違いない。私は汚名返上とばかりに第三陣へと向かったが、ここで既に詰んでしまっていることに気がつく。いくらメニューが多いとはいえ、全く新しい料理を9品選べば主役のいなく絵的にも地味なお皿になってしまう。かと言ってまたローストビーフや唐揚げを選んでは芸がなく、食い意地の張った人間に見られかねなかった。そう、もし四角形のお皿を複数回使うのであれば、主役を張れる肉系のメニューも分けて盛り付けるべきだったのだ。
敗北を悟った私はもう適当に自分の好きなメニューばかり選び席へと戻った。すると彼女もまた主食のおかわりをしていた。白い大皿にはピザ、パスタ、ニョッキなどイタリアをテーマにした4品の主食がカルテットを成していたのだ。
バイキングだからと言って無闇に多国籍化を奨励せず、1枚のお皿に1国を代表するメニューを盛り合わせたのだ。
既に戦意を失った私に残されたのはスイーツだけだった。この店はスイーツの種類も多く、ゼリーやアイスなど子供に好かれる物からお汁粉など年配の口にあうメニューが用意されている。
だが流石にスイーツを何種類も食べられそうになかった。私の頭の中は隣の一家が食べていたあんみつ用の白玉だんごを入れたお汁粉とアップルパイを食べることでいっぱいだった。スイーツ用の木の葉形のお皿にそれぞれ盛って席へ戻ると、入れ替わるように彼女が席を立った。彼女もスイーツタイムになったのだ。
しかし彼女は9つの窪みが付いたあの四角形のお皿を持って帰ってきた。それぞれの窪みには白玉だんご1個に抹茶パウダーが掛けられ、豆乳プリンも1口サイズで恭しく盛られていた。そう、彼女は小鉢にスイーツを少量ずつ盛ることですべてのスイーツを1皿で網羅したのだった。
アラカルトを思わせるお皿の全景、店側に用意されている料理しか食べられないバイキングだというのに創意工夫が感じられる盛り付け。彼女のお皿は客のことを考えたまさに料理だった。
それに比べて私のスイーツは隣の一家に訴えられてもおかしくないパクリ。ボロボロに打ちのめされた私は、制限時間の70分のおそらく半分も使い切らないうちに退店。彼女はというと小さなスプーンでスイーツを1品1品じっくりと味わっていた。
心に余裕が有るときの『食の軍師』ごっこは意外と面白い。まぁ料理が美味しい日本でしか出来ない遊びだろうけど。