この日は午前中に長寧図書館で欧米ミステリ小説研究家の劉臻が『書籍のカバーの歴史と価値』という講座を開くので行ってみました。PPTを使用して欧米の主にミステリ小説のカバーの歴史を説明してくれて斬新な視点が面白かったです。カバーが登場したての頃は読者に邪魔に思われて買ったそばから引剥されたせいで現在それらの本が希少価値が出ているという話をよく覚えています。
午後からは自由行動となり一人で上海ブックフェアを探索。
各出版社ブースの大仰なセットもブックフェアの見どころのひとつです。
日本の書籍が販売されているブース。毎年列ができるほどの盛況。
日本の1.5倍~2倍の価格で売られているので、Kindleを持っている日本人には魅力がありません。
階段に座って戦利品の本を読んだり休憩したりする人々。正直言って邪魔ですが他に座れる場所もないので仕方ありません。
中国の著名なサスペンス小説家・秦明のサイン会。
18時から北京在住の日本人華僑・吉井忍の新刊『東京本屋』のサイン会が開かれるので行ってみました。前作の料理本『四季便当』(四季のお弁当)とは打って変わって東京にある個性的な本屋を紹介するという内容で、カラー写真もインタビューもあって非常に読み応えがあります。
吉井忍は聞いただけで外国人のものとわかる私にとってはとても安心できる中国語でサイン会にいる100人ぐらいの中国人を前に流暢に話していました。
サインをしてもらう時、日本語でいろいろお願いをしたところ「こんなところに日本人がいるなんて!」と驚かれました。確かに吉井忍は日本では本が出ていないので日本人にとってはマイナーな作家でしょう。
その後、19時から上海図書館地下鉄駅構内の書店で行われている新星出版社主催の座談会を見学。今回も例の四人組(王稼駿、時晨、陸秋槎、陸燁華)が作家という立場で『我々にはまだ探偵が必要か?』といいテーマを展開。誰が言ったか忘れましたが「探偵を出すとシリーズ続けられるから良いよね」という言葉には、自分にも何人か思い当たる作家がいたので案外本音だったのかなぁと思いました。
3日ぐらい会っているとこの四人の作家の個性が見えてきます。
写真一番左の王稼駿は物事を端的に言い表す人間で言葉のひとつひとつに説得力が有ります。その隣の時晨は外見からもわかるように兄貴肌で社交的で私にも結構話しかけてくれました。ヒゲを生やしているのは陸秋槎で、一見ナイーブそうに見えますが一番お喋り好きという感じです。『陸姐姐』(陸姐さん)という愛称で読者から呼ばれているのは彼のしなやかな言動によるものでしょうか。一番右にいる陸燁華はなんでこんな男が小説家などやっているのだろうと思うほどのイケメンでトークも上手く結構軽い感じなのですが創作活動に人一倍プライドを持っており、それは例えば「自分は誰の影響も受けていない」という発言からも伺えます。
そして恒例のサイン会。今回は40人ほどが参列し、中には作家たちに花束を贈る女の子もいました。
あと、ただの来場者として来ていたミステリ小説家の鶏丁にサインを求める読者がいたのが面白かったです。鶏丁の作品は稲村文吾氏が短編を翻訳していますので興味のある方はご購入ください。
(アマゾン:憎悪の錘)
今日のイベントが終わり、昼からなにも食べていなかったので日本人が集まる古北路まで行きました。しかし時刻はもう22時を回っていてこれと言った店がなくうろうろしていると海南鶏飯屋を発見。海南鶏飯と鶏モツ炒めそして黒ビールを頼み気分はちょっとした孤独のグルメ(または食の軍師)です。
部屋に帰るとお腹を減らしたNiaNNNN君と華斯比と一緒に外で串を食べました。(灯証君は明日朝が早いので不参加)やはり串はみんなで喰うのが最高です。
これで私の上海ブックフェアの旅は終わりですが、21日にもあった伊坂幸太郎座談会について触れてみます。
灯証君はこの日の座談会にも参加したのですが、彼いわくこの日の伊坂幸太郎は前日(19日)とは打って変わって明るかったようです。
その理由については新星出版社のこの3日間の公式レポートから知ることが出来ます。
(参照:伊坂幸太郎イベントを振り返る・優しい読者たちに感謝)
中国語訳されているので当日に伊坂幸太郎が日本語でなんと言ったかまでは詳しくわかりませんが、赤線枠内を簡単に翻訳すると「中国に来る前は全く実感がなかったが19日と20日の上海ブックフェアでみんなきちんと列に並んでいたのを見てびっくりしたと同時にみんなとても優しくて感動もした。もしめちゃくちゃ怖い人と会ったらどうしようとずっと思っていたからです。あと、上海料理が美味しかったです。」
なるほど確かに21日の座談会では伊坂幸太郎はリラックスしているようで、心なしか19日よりも質問には丁寧に答えているように見受けられます。
気になるのは最後の方で「自分の作品を中国で映画化させるつもりはあるのか」という質問に対して『陽気なギャングシリーズの映画化の話がすでに始動していること』に触れていないことです。単に思い浮かばなかったのか、それとも伊坂幸太郎はこの件にあまりタッチしていないのか、現場にいて追加質問出来なかったことが悔やまれます。