暴走する反日デモに対し理性的な愛国を呼びかけていた中国人は地下鉄に乗ったことないのだろうか。
19日に公安当局から北京市民に向けてデモ禁止のショートメールが流され、北京の反日デモはとりあえず落ち着いたようだ。しかし中国の国旗五星紅旗が掲げられたままの日本料理屋や営業を再開したセブン・イレブンを見るとまだまだ油断はできなさそうだ。
中国各地で起きた反日デモは規模も被害も地域で異なるが、デモの名目で繰り返された破壊行為や略奪の光景は日本人の目にはショッキングに映ったことだろう。しかし、この暴動の実態に中国人自身がショックを受けていることが不思議でたまらない。
果たして中国人は今回のデモが平和裏に終わるなど本当に信じていたのだろうか。
デモ隊にひっくり返された自動車や燃え盛るデパートの写真がマイクロブログに上がると『これは真の愛国ではない。もっと理性的になれ』と声が挙がったが、その声がデモ隊に届くと思っていたのだろうか。
北京の地下鉄のホームでは横入りや順番無視がよく見られる。極めて日常的な光景なので駅員もさして強く注意しようとしない。降車口の前に陣取り地下鉄から下りる客の流れを邪魔して我先に車内に入ろうとし、限られた乗車時間を浪費させる。ホームに流れる『先下後上』(先に下りてから乗車しましょう)のアナウンスは耳に入っているはずなのに、たった四文字のルールを守ろうとしない。
このような地下鉄の並ぶ順番すら守れない人間がデモの時に理性的になれるわけがないだろう。
『理性』を口にする中国人たちは自国民をどれだけ高い位置に置いているのかわからないが、その言葉はマイクロブログから届くことはない。現場で肉声を聞かせたところでその聞き慣れない言葉は暴徒の耳に入らない。
そして中国人自身、こんな時に同胞が理性的になれるはずがないと理解しているから、自動車に『釣魚島』ステッカーを貼り、日本料理屋には自国の紅い国旗を掲げる。それはまるで魔除けのようだ。
自分が理性的だと思っている人間は彼らを言葉で説き伏せられないとわかると、彼らを否定するようになる。だが中国人自身がまるで彼らが真の中国人ではないかのように非難するのは間違っている。
デモの参加者も、機会に乗じて暴力を振るった者も、デモを遠巻きに眺めていた第三者もみんな中国人なのだ。一致団結が大好きな国民なのだから、問題が起きたときだけ『アレは違う』と切り捨てるのは無しだ。
問題に直面したとき人は現実ではなく理想に目を向ける。中国は(政府の邪魔にならない程度の)自由を保証されているので理想を語るのは勝手だ。だがその理想がさも今すぐにでも実現可能なことのように考えるのは妄想だ。
『理性的になれ』という掛け声はデモ隊に向けるのではなく、列の横入りをする者たちにまず語りかけるべきだったのだ。
今後しばらく日本人は中国人よりも理性的な行動を強いられる。せっかく落ち着きかけた時期にバカなことをやってしまって、『アイツは日本人じゃない』と日本人から見捨てられるのだけは避けたい。北京に住んでいる私の場合は中国人からも軽蔑されるから、言動にはより一層注意を払わなければいけない。
だが中国人に嫌な思いをさせられ、別の中国人から『全ての中国人がああだとは思わないでくれ』と慰められるのは御免被りたい。
そんなこと最初っからわかっているんだ。
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