近所の八百屋は一見どこにでもある冴えない果物屋だが品揃えがなかなかよろしい。
アフリカから空輸したというミニトマトを売っていたことがある。食べてみるとスーパーで売られているようなものとは皮の張りも色も甘さも段違いで、日本のミニトマトに引けを取らなかった。値段も定価の2倍以上したが美味いのでそれ以降見つけたらいまとめ買いするようにしている。
そしてこの八百屋は柑橘系に力を入れているようで、奇妙なみかんを何の説明もなく売っている。(そもそも中国の八百屋では品名や価格を表示しない)
この果物は今年1月に買ったものだが、金柑らしい外見とは裏腹に味も食べ方も異なっていた。
直径4センチ程度の果物には柑橘系の皮にあるような斑点状の模様がなかった。皮は指で剥ける硬さなのだがその感触は洋なしに似ている。表皮を向くと白い皮が見えるが、みかんの白い筋と同じように剥くことはできず、爪で削るかナイフで削ぎ取るしかなかった。
味の方はというと非常に淡白で酸味のかけらもなく、蜂蜜のような甘みを若干感じる。この微かな甘みが余計に金柑を想起させるのだが、この果物の隣に売られていたのが金柑だったので別種なのだろう。
あまりにも不思議な味だったので後日店員になんて名前か聞いたのだが、発音だけ聞いても漢字が想起できず百度でそれらしい漢字表記を打ち込んでみたのだが結局ヒットしなかった。そして探すことを諦めて名前の方もすっかり忘れてしまった。
先日買ったこれも目についたからついつい衝動買いしてしまった。なにせこんな毒々しい赤い色の果物など見たことはない。一応店員になんだこれはと聞いたんだが、「これは酸っぱいんだ」という答えしか得られなかった。
皮を剥くと硬い皮とは裏腹に果肉を包む薄皮は柔く、真っ赤な果汁がにじみ出る。なんと中まで赤かった。香川県には小原紅早生という赤いみかんがあるようだが、色の濃さではこちらの勝ちだろう。
輪切りにしてみると各房の外側だけが赤く、中身は普通のみかんと変わらない。
肝心の味はというとそこまで酸味はなく、房の薄皮が柔らかいグレープフルーツといった感じで美味であった。
近所の何でもない八百屋でも珍菓が手に入る。これが北京のいいところと言うべきか。食の危険が叫ばれる昨今、こうした不思議な食料を漁るのが私の娯楽の一つになっている。