なんか『のうりん』がブームだなぁこんなことなら帰国した時1巻ぐらい買っておくべきだった悔やみながら中国語版は出ていないのかとネットを調べると、やはり台湾版は尖端出版社から既に出ていたが大陸版(つまり簡体字版)はまだらしい。
『のうりん』はフォント弄りや挿絵を効果的に利用しているライトノベルだから、それが翻訳版で再現出来ているのか確かめたかったんだけど、台湾版を試し読みできるサイトは見つからない。
そこでアニメイト北京支店に行ってみたのだが工事中だったため台湾版があるのか探せられなかった。
Animate北京支店
朝陽区工体東路16号中図外文書店4階
だから台湾版はネットショッピングモール淘宝で買うことにして現在入荷待ち。
台湾の書籍は日本と同様縦書なので日本語版と同じレイアウトにし易いだろう。しかし書籍は横書きが基本の大陸版で同じものを作るのは非常に難しそうだ。
まぁ正規版はなくとも海賊版はある。とあるライトノベル翻訳サイトに寄ると、本物同様挿絵付きで小説のように2ページ見開きの状態のデータがアップされていた。おそらく日本の電子書籍が台湾繁体字に翻訳されたデータを更に簡体字へ翻訳したものだろう。
しかし『のうりん』のようなパロディ満載の作品を翻訳するのは骨が折れただろう。実際その海賊版にはネタに対して多数の注釈がついており訳者の苦労が見て取れたが、私が確認したかった『のうりん』1巻第5限(ウォッシュメン)に登場する『ヒストリエ』のパロディ「ば~~~~~かじゃねぇの!?」には何も注釈が付けられていなかった。
その前の「だましてくれたなァァァァ!」もスルーされていたのでこれを担当した訳者は『寄生獣』は知っているが『ヒストリエ』(中国語タイトル歴史之眼)を読んだことがなかったのだろう。
実は私はこの海賊版を確認する前に2012年にとあるライトノベル愛好者が中国のSNSサイト豆瓣にアップした推薦文を読んでいたのだが、ここで「ば~~~~~かじゃねぇの!?」の元ネタが誤解され間違った注釈が付けられていたため、海賊版がどうなっているのか気になっていたのだ。
上記が件のサイトの画像である。EVAと書いているから想像できるだろうが、紹介者は『爾們是白痴嗎』(アンタらバカか?)のセリフを見て、エヴァンゲリオンのアスカの『あんたバカァ?』と混同してしまったのだろう。
私はこういった注釈を大量につけているのにやはりネタがこぼれ落ちている海賊版や、ライトノベルに詳しいような人物がネタ元を間違って紹介している書評を見ると、中国で正規版を出版する意味はまだあると確信する。
中国で紙媒体の本、とりわけ翻訳小説の読み物としての価値は低い。以前もブログに書いたが中国では正規版はコレクション用としてしか見られていないようで、熱心なファンであればあるほど出版なんか待っていられずネットで先に海賊版を読んでしまう。だから彼らが紙媒体の正規版に期待するのは使っている紙の手触りだったり、表紙の色調だったりで、翻訳の質は二の次である。アマゾンのレビュアーが書き込む『質量不錯』(質が良い)とは書物そのものへの褒め言葉に過ぎない。
だが『のうりん』のようにパロディが豊富でレイアウトを工夫しているライトノベルには日本のマンガ・アニメ、その他サブカル文化などを説明できる深い知識が要求されるだけではなく、イラストを所定のページ内に収める技術も必要となる。これを処理するのは海賊版の作成スタッフだけではなかなか難しいだろう。
だから正規の翻訳小説が原作のフォントいじりやイラスト活用を再現し、一般読者にはわからない語句にも注釈を付ければ、それが今後の正規版の新たな指針となり、現在は海賊版の代替品に過ぎない正規版の地位向上にも繋がる。
またこのサービスは原作を知る一部のマニアを喜ばせるとともに、多くの読者の知識を増やすことになる。実際アニメが放送されたあと、百度のBBSには以前は見過ごされていた『ヒストリエ』のネタが取り上げられていたので、中国人もネタを全て網羅したいという心理があるようだ。
http://tieba.baidu.com/p/2821927557
ただその前には日本と中国の本のサイズと書式の違い、翻訳した際に発生する文字数の増減など努力のみでは解決できない問題が立ちはだかっている。
ひと目で分かるサイズの違い
ただし正規版の特にライトノベルは今後コレクション用として特化し、『のうりん』のような広い知識が必要になりイラストで遊んでいる作品はより原作の形態に近づけ、パロディもフォントいじりも何もない正統派ライトノベルには特典を付けるなどしないと出版する意味がなくなってしまいそうだ。そのためにも『のうりん』簡体字版は完全な注釈付きで原作を再現して欲しいのだが、そもそも出るかどうかもわからない本に期待するのが間違っているか。
『のうりん』を出版しているレーベルGA文庫は今まで『織田信奈の野望』と『這いよれ!ニャル子さん』の簡体字版を現地の出版社から出している。今後も同様に現地の出版社を頼るか、それとも中国の角川書店のレーベル『天聞角川』御用達の湖南美術出版社を使うことになるのかわからないが、『のうりん』の簡体字版を出版するときは是非上記の点に気をつけ、海賊版との明確な差を打ち出して貰えたらと思う。