新聞記者那多の怪奇メモシリーズ第7弾
韓国在住のフランス人宅の冷凍庫から嬰児の冷凍死体が2体発見された。解剖の結果1体はフランス人夫婦の赤ん坊と判明したが、もう1体は誰のものかわからず、筋肉が異常に発達した奇形児だった。
解剖を担当した監察医の何夕から話を聞いた那多は、この事件が3年前に取材した妊婦と関係があることを思い至る。上海のとある病院で出産をしたその妊婦黄織の赤ん坊は生まれる前から既に死んでいた。それも紙のようにペラペラの状態で出て来たのだ。
紙のように薄い赤ん坊とは荒唐無稽のホラー小説の題材に見えるが、こういう症例は実在する。
バニシングツインという双生児を妊娠した際に起こる現象がそれだ。双生児の片方が母胎で十分に成長せずそのまま胎内に吸収されてしまい、あたかも子宮内から消失したように見えることからバニシングツインと言うらしい。ごくまれに、母胎ではなく胎児が吸収することもあるそうだ。そして完全に吸収されなかった胎児はもう片方の健康な胎児に圧迫される形で胎内に残るので、出産のときには紙のような薄っぺらい状態ででてくる。これを紙状児という。
紙状児がいたということは、黄織のお腹には健康な赤ん坊もいたはずである。しかし何夕の調査の結果、韓国の身元不明の冷凍嬰児こそが黄織の子供だという事実がわかった。何故上海で生まれた子供が韓国の冷蔵庫にいたのか。そして母親と一緒に病院に来ていた黄織の長女纤纤(日本語表記の場合は糸へんに牽の字)も消息不明なのは何故なのか。
情報を足で稼ぐ那多と、死体から情報を聞く何夕の行動により明かされる新事実の数々に物語はますますミステリホラーの様相を増す。そして重要人物の黄織が殺されたことにより、事件はいよいよ不可能性を帯びてくる。
黄織殺害の犯人が裁判所のトイレから消失したことで物語のミステリ色は最高潮に。だがここから那多が探偵役として事件を解明する流れにはならず、黄織の娘纤纤が聖女として祀られている邪教集団が現われたり、精神文明事務所という謎の組織が出て来たり、どんどん現実離れしてくる。
そして最後、全ての謎を軽薄なSF展開で乗り切った結末には、ミステリ好きもホラー好きもそしてSF好きすらも裏切ることになる。
ちなみに、事件のきっかけとなった韓国在住のフランス人夫婦が冷蔵庫で嬰児の遺体を発見したニュースはノンフィクションである。
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=79416&servcode=400§code=400
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=79149&servcode=400§code=400
作者の那多はこのように現実の事件をもとに想像力を働かせ、不可思議な小説を書くのを得意としているようだが、この本を読んだ限り決着の付け方がカストリ雑誌記者並みと言わざるを得ない。