2016年度第74回ヒューゴー賞短編賞を受賞した『北京折畳(折りたたみ北京)』が収録されている短編集。劉慈欣の『三体』に続く中国人作家のヒューゴー賞受賞作品ということでTwitterなどで既に話題になった作品をようやく読むことが出来ました。
人口の増加と土地の減少の問題を解決するために北京は500万人の上流階級が住む『第一空間』、2,500万人の中流階級が住む『第二空間』、そして5,000万人の下流階級が住む『第三空間』の三つの世界に分けられた。空間は時間帯によって入れ替わり、時間が来ると土地が建物ごと折りたたまれて仕舞われて新たな空間が現れる。第一空間の住人は朝6時から翌日の朝6時までの24時間を享受することができるが、第二空間の住人は朝6時から夜10時までの16時間しか使えず、第三空間の住人に至っては夜10時から朝6時までの8時間しか時間が貰えない。主人公の老刀は第三空間で生まれそこで2,000万人が従事しているゴミ処理場の職員として働いている。ある日、第二空間の学生から第一空間まで手紙を送るように頼まれた老刀は娘を良い幼稚園に入れるお金を稼ぐために決死の思いで『密入国』をする。
統計によると2016年現在の北京の総人口は2,000万人ほどだと言われていますが、実際には3,000万人以上いるという指摘もあります。この作品ではおよそ8,000万人の人間が北京に暮らしていますが、ここでは空間どころか時間でも住民を明確に区別しています。
第三世界に住んでいる住人は罪を犯したわけでも罰としてそこに入れられているわけでもありません。老刀の場合は彼の父親もここでゴミ処理場で働いており、この境遇が悲惨であるとも思わず怒りも覚えておりません。そして恐らく第一空間の住人も同様に、第一空間で生まれた子どもは生涯そこで過ごすことができるのでしょう。
この作品で衝撃を受けたのは北京が知育玩具のように折りたたまれて異なる様相を現すこと以外は特に現在と変わりがないというか現実の延長にある世界を抱いているところです。
実際に北京に住んでいる外国人として自分は第二世界には行けるのだろうかと不安を抱きますが、それすらも中国人から見ると非常に傲慢な考えで、外国人だからと言っても能力のない人間は第三世界にすら住めないかもしれません。実際いまは北京で発行される外国人ビザの条件がどんどん厳しくなっているので、自分としては北京が折りたたまれることより北京に住めなくなるんじゃないかという不安の方がよっぽど切実かつ現実的です。