快把我哥帯走 著者:幽・霊
タイトルを直訳すると『早く兄を連れて行って』。ラノベタイトルっぽく意訳すると『お兄ちゃんさっさと出ていって』ってところだろうか(帯走を出て行けにするのは意訳すぎるだろうか)。
タイトルだけ見てライトノベルかと思いアマゾンで即買したのだが中身は漫画だった。だけど内容は『まんがタウン』にでも載せていいんじゃないかってぐらいのほのぼの兄妹漫画だった。
もし兄がいたら…
もしこんな兄がいたらきっと時秒と同じように
毎日何回でも暴れたい?!
キャッチコピーの1文目に「もし兄がいたら…」という仮定を立てるのが中国らしい。日本なら2番目の「もしこんな兄がいたら…」から始まるだろうが、中国なら兄弟姉妹がいることが結構ハードルの高いIfの話なのでこう書いても違和感はない。
国欠哥(中国には兄が足りない)、国欠妹(中国には妹が足りない)と嘆く声が特にビリビリ動画の『干物妹!うまるちゃん』の画面上に出てくるように、一人っ子政策化に生きている中国人が兄弟姉妹のいる生活に興味を持ち、羨んでいるのは確実だ。私は以前、留学中に知り合った中国人学生の口から『姉』という単語が出てくるのでまさかお姉さんがいるのかと尋ねたところ実はイトコだったってことが数回もあった。身近な人間を擬似的な兄弟に例えて身内自慢をしたい気持ちがあるのかもしれない。
ただ、今後はイトコなんて存在も少なくなるのだろう。
さて、本作品はいわゆるウェブ漫画で、今年1月に微博にアップされてから合計閲覧数が3億回にも上り、2015年度の第12回金龍賞の最佳劇情漫画賞の銅賞に選ばれた。
(金龍賞:中国のアニメや漫画などの優れた作品に与えられる賞)
(最佳劇情漫画賞:直訳すると最優秀ストーリー漫画賞)
あと、「兄がいたら」というキャッチコピーから察する通り、この漫画は女性読者を対象にして描かれている。
キャラクター紹介
兄:時分
テンション低めの高校生。色気より食い気の面倒くさがり屋。バスケ部所属。可愛い。
妹:時秒
テンション低めの中学生。兄妹喧嘩にはいつも勝つ方。兄よりはしっかりしている。可愛い。
時分の友人:開心
バスケ部のエース。以前食堂で時秒の代わりにお金を支払ったことがきっかけで時秒に一目惚れされる。しかし開心と時分はそのことを知らず、時秒も片思いの相手が兄の友人だと気付いていない。
時秒の友人:苗妙妙
妄想過多の女の子。時分に好意を抱いている。
キャラが可愛い漫画だけど4コマ漫画ではない。しかしテンポは4コマ漫画に似ていて、オチはついているがひねったものではない。兄妹あるあるネタが通用しづらい中国でどんな漫画ができるのだろうと期待したもののカップルネタを兄妹ネタに置き換えただけじゃないのかというオチがちらほらある。しかし兄妹だからこそ微笑ましく見え、また許容できるネタもあるので、つかず離れずの距離感をよく表現できていると思う。
一口ちょうだいのシーン
コーラのシーン
(説明すると自分のコーラを勝手に飲んだ時秒に「それさっきツバ入れた」と嘘を吐いたところ吐き戻される。数分後、そんなことをすっかり忘れてコーラを飲む時分に時秒がドン引きしている図)
作者の幽・霊は実は双子の姉妹。これらも実体験を下敷きにしているのだろうか・
実はこの兄妹はちょっと複雑な家庭環境にあり小さい頃に親が離婚して父親と暮らしている。何故父親と暮らしているのかと言うと、明るく元気で教養もある母親より無教養で飲兵衛のタクシー運転手の父親に同情したというブチャラティみたいな行動を起こした時分が父親を選んで時秒も兄に付いて行ったからなのだが、これ母親からすると子供二人に捨てられたってことだからダメージデカそう…
ところで、両親の離婚で子供が頼りがいのある親ではなく可哀想な親を選ぶという元ネタはどこまで遡れるのだろう。
この両親の離婚が描かれた29話の過去編は是非ともみんなに読んでもらいたい。先日父親を選んだことも忘れて、母親が自分たちを捨てるはずがないと確信している時分と時秒が家から出て行った母親に戻って来てもらおうと体を張った作戦を実行するのだが、全てはもう終わっていたと気付いた時分が兄として時秒をあやすシーンはフィクションが故の嫌味のない美しい兄妹愛を感じる。
このようにシリアスなシーンもあるが以下のようなネタも仕込まれ漫画としての完成度は結構高く内容が充実している。
やだ…かっこいい
壁ドン
トンガリアゴのイケメン
あと各所に出てくる妙に構図が上手な関節技や投技の一枚絵が無性に気になった。作者は格闘技や格闘漫画が好きなのだろうか。
しかしこの漫画、何故『快把我哥帯走』(早く兄を連れて行って)というタイトルなのだろうか。妹が兄を嫌っている描写もうざがっている描写もないし、喧嘩をすると言っても時秒が一方的に時分を投げ飛ばしたり関節技を決めたりと微笑ましい内容なので、なんでこんな兄を邪険に扱うタイトルなのかは読んでもよくわからなかった。