しかし大変なことになったな。
日本人留学生のSはそう口を開いた。
彼が言っているのは今や海外でも問題が波及している『メラミン入り牛乳』のことだった。中国の大手牛乳会社数社が牛乳に『メラミン』という薬品を入れて水増ししていた事件は中国人に衝撃を与え、特に最大手だったA社とB社からもその薬品が出てきたと言うことは致命的だった。
オレはAとB社なら安全だと思って勧めたのによ。
ガイドのバイトをやっているSは日本から来る観光客に北京の名跡を案内している。オリンピック中は毎日のように会場へ出向き、その後の買い物からお土産選びまで担当していたらしく、そこで中国の牛乳を紹介したのだ。
C社のは飲むたんびに下してたから、それに比べるとAとB社のはたまに腹を壊すぐらいだから良かれと思ったんだけどよ。
C社とは北京に本社を置く牛乳メーカーで、今回の牛乳騒動の中で数少ない『白』だった会社である。中国メディアやスーパーなどはこぞってC社の牛乳の安全性を宣伝している。
「いくらそのときは何のニュースもなかったとは言え、初めからC社を勧めるべきでしたね」
ボクの言葉にSは持っていた湯飲みを置き、口を歪めた。
C社のが安全だってなんで言える?
SがC社のを勧めなかったのには別な理由があった。
著者の遠藤誉氏は1941年に中国は長春で生まれた日本人で、現在は理学博士として日中両国を股にかけて活動されている女性です。
ボクが本書を知ったのは5月上旬のこと。現代中国のアニメ業界とそれを取り巻く政治状況について述べられ、ネット上の評判も良いこともあって日本から送ってもらおうとした。
そんなところに顔の広い友人から驚くべき情報が。
なんと本書に触発された北京大学の有志が日中合同でアニメ学会を開くとのこと。しかも著者の遠藤氏も偶然中国に滞在していて顔を出していただけるらしい。
作者の生の声を聞けるし、中国人のアニメ観を知る良い機会だと早速参加する。
日中友好の場所として設けられた小さな教室には発表者含めて三十人ほどの来場者がいたが、日本語ができる中国人が多かった。
学会は幸か不幸か、本書『中国動漫新人類』の文章段落に基づいて進行された。各章の内容については以下の通り。
第一章 中国動漫新人類―日本のアニメ・漫画が中国の若者を変えた
第二章 海賊版がもたらした中国の日本動漫ブームと動漫文化
第三章 中国政府が動漫事業に乗り出すとき
第四章 中国の識者たちは、「動漫ブーム」をどう見ているのか
第五章 ダブルスタンダード―反日と日本動漫の感情のはざまで
第六章 愛国主義教育が反日に変わるまで
第七章 中国動漫新人類はどこに行くのか
ここで幸か不幸かと言ったのは、発表者はアニメ研究者がいたり全く違う分野の院生がいたりしてジャンルに富んでいたのですが、発表は著書の内容の枠から出ない作りになっていたので(悪く言えば読書感想文)、独自の意見を言えていなかったからです。むしろ著者である遠藤氏の説を立証するような構成になっていました。
しかしそれでも、各発表のあとの質疑応答では遠藤氏に質問をぶつけられるようになっていたし、日本語を流暢に喋る中国人学生が自国の動漫文化とサブカルについて発表するのに、中国人オタクに対して好奇心を新たにし、このあと届くだろう本書に期待を膨らませました。
本書は、まるですれ違うように発表の翌日に届きました。
さて、前置きが長くなりましたがここから感想です。5月に読んだ本をなんで今更レビューするのかはスルーして下さい。