中国にいても日本の情報は入る。福田総理辞任はもちろんのこと、24時間テレビでエドはるみという芸人が走ったことも、ジャンプでダブルアーツが打ち切られたことも、秋の新作アニメの内容も耳に入る。
先日、同じ中国留学生でアニメ好きの友人から「とらドラ!のヒロインは釘宮以外ありえない」というメッセージが届いた。
釘宮は声優のだろうけど、『とらドラ!』ってどんなアニメだ?と気になりウィキペディアで調べてみた。
電撃文庫のライトノベルが原作のこの物語のヒロインは、『チビ』で『美少女』で『金持ち』で『不器用(家事も人付き合いも)』という釘宮的ツンデレ要素満載のキャラクターだった。友人の言うことには一理ある。
さらにググってみるとヒロインの声優が釘宮理恵になるのはもう確実らしく、いくつかの掲示板には7;3ぐらいの賛否両論の意見が交わされていた。
また友人はこんなことも言っていた。「小説を読んでるとヒロインの台詞が釘宮声で変換される」と。
掲示板でもこのような意見があった。
彼らの意見の根拠はおそらく『ゼロの使い魔』というライトノベルや『ハヤテのごとく!』という漫画から来ているのだろう。二作品はもう既にアニメ化していて、それらヒロインは環境こそ違えど『チビ』『美少女』『金持ち』『不器用』と『とらドラ!』のヒロインと同じ要素を持っていて、釘宮が声優を担当している。
ツンデレ声優釘宮の地位が確立されて、釘宮がやるツンデレキャラが形を持ったのは『ゼロ~』からだろう。だからこそ同じようなキャラクターを見た彼らが、まだアニメ化していない作品を読んで頭の中でつい釘宮理恵の声を再生させてしまうのも仕方がない。
『とらドラ!』がアニメ化しヒロインが釘宮になる結果に、自分の予想が当たったと喜んでいる読者は多い。
だけど果たして作者はヒロインの声優が釘宮理恵になることを喜んでいるのだろうか。
(ここから、『とらドラ!』は『ゼロ~』や『ハヤテ~』のアニメを観た作者が自分の作品で釘宮キャラを作ろうと真似をして見事それが実った、と持論を展開できれば良かったのだが『とらドラ!』の出版年月日は2006年3月、『ゼロ』のアニメは同年6月から始まっているのでこの説はもう成り立たない。だから本当はキャラクターの性格と声優の密接な関係を述べれば良いんだけど、敢えて初めの考えを貫くことにする)
小説でもドラマでも物語を書くに当たってはまずその核となる登場人物を造らなければいけないのだが、一から造ることは不可能でモデルが必要不可欠となる。そして複雑な人間を描こうとすればするほど数多くのモデルが必要になってくる。
作者自身の家族や友人、漫画・アニメのキャラクター、ドラマの登場人物、絵画の中の人物、または犬や物などを擬人化させたり、詩の一篇や会話の端々などから意識的にそして無意識的に作者はモデルを選択し創造する。
作者は普通、モデルと創作人物が似ないように描くが、モデルの個性をなくさないように気をつける。
モデル一人からパクればそのキャラが占める性格も多く使うことになるので発見されやすいが、複数の人物からパクればどこからパクったなど断言されにくい。
しかしそれならパクったモデルの性格や外見などの個性が混同して統一できていないキャラクターが出来上がるだろう。
だが、たった一人のモデルが多種多様な外見や性格を備えていたとすればキャラ作りはかなり容易になるのではないか。
例えばボクがドラマ化を夢見てサスペンス小説を書くとする。サスペンスだから登場人物はあまりアニメアニメしていてはいけないので、実在する人物をモデルに考える。それにあたり、是非とも阿部寛のようなキャラクターが欲しくなったとする。
だが阿部寛は既に何本もミステリドラマに出ている有名俳優だから、例えば『トリック』の上田や『逃亡者』の峰島をそのまま持ってくることは安易なパクリになってしまうのでできない。
では、『トリック』も『逃亡者』も『ドラゴン桜』も『結婚できない男』も全て引っくるめた『阿部寛』を造ればパクリと指摘されないんじゃないだろうか。
出来上がったのは、ニヒルで超常現象より科学を信じ、様々な分野の著名人に顔が利き、女や結婚が大嫌いという人物の性格の一つ一つに注目するという個性の強い人間だ。
このキャラクターは当然、過去に阿部寛が演じた役を下地にしているので「まるでトリックの上田だな」とか「結婚できない男の桑野みたいだ」と言われる恐れがあるが、全てを合わせてしまえば一般的な特徴になってしまうので「まるで阿部寛みたいだ」と言われることはない。
アニメにも同じことが言える。ボクがアニメ化を望んでライトノベルを書くとしたら、まずキャラの魅力を考えるだろう。
声優業界が今まで積み重ねてきた歴史を見れば、個性的なキャラを演じる声優などいくらでもおり、彼らが演じたキャラは星の数ほどいる。
ヒロインを流行りのツンデレキャラにするなら前述の釘宮理恵にスポットライトを当てる。『ルイズ』『ハヤテ』『シャナ』『ロザリオとバンパイア』『マリみて』、そしてこれからやるだろう『とらドラ!』などから持ってきた釘宮理恵のキャラクターを一纏めにして、魅力だけを抽出した新たなキャラを造れば受けること間違いない。
しかもこのやり方、キャラ造りに頭を抱えないだけではなくもう一つ大きなメリットがある。それは、アドリブが利くということだ。
小説を書いていると、「この場面にコイツならどういうことをするだろう」とキャラの行動の壁にぶち当たることがある。だが上記の方法を用いればその場面すらもパクることができ、次の言動に悩むことなどなくなるのだ。
ヒロインが同性と喧嘩しているときは『マリみて』の『瞳子』を、戦闘しているときは『シャナ』を、兄がいるんなら『ハガレンのアル』を、男体化してしまったら『美鳥の日々の真行寺耕太』を持ってくれば良い。更にレバ刺しや犬が好きだという釘宮理恵本人の個性を付け加えたらヒロインのキャラがより広まる。
そこで最初の話に戻るけれど、もし『とらドラ!』の作者が既にこの理論を実践していたら(実際には作者はパクっていない)ヒロインの声優が釘宮になったことは全然喜ばしいことではないだろう。何故なら自分のやり方が世間にばれてしまっているからだ。
以前サンデーで連載していた『ロストブレイン』という漫画が、物語の構成からキャラクターの性格や立場、ストーリー展開まで全てデスノートのパクリだと指摘された。結局疑惑のロストブレインは徐々に雑誌の後ろへ後ろへ掲載されていって先日打ち切られたが、もしもあの漫画が支持を得てアニメ化されるにあたりキャストがデスノートと全く同じだとすれば、作者に対するこれ以上ない皮肉になっただろう。
しかしこの方法を使って作られたキャラクターがパクリだと糾弾されることはない。何故なら既存のキャラクターをモデルにしている以上、生み出されたキャラがどれほど魅力的でも、実質的にはどこのアニメにでもいるありきたりなキャラに過ぎないからだ。
だからこのやり方はキャラクターが重視されるエンタメやライトノベルに限らず、どんな作品にでも当てはまる。しかし何よりストーリーが面白くなければ流行りを狙った二番煎じの作品にしかならないので、ストーリーはオリジナルじゃなきゃダメだ。
だけどこうすればもうキャラクター作りに頭を抱えることもなく、個性的なキャラが溢れる作品を書けるだろう。渋くてサバイバル能力に長けている親父を書きたければを、格好良いけどどこか変な先輩が欲しければを参考にすれば、魅力的なキャラがいともたやすく生まれる。
問題は、この方法はアニメやドラマを見ていないと実践できないということだ。