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栖鄭 椎(すてい しい)
年齢:
41
性別:
非公開
誕生日:
1983/06/25
職業:
契約社員
趣味:
ビルバク
自己紹介:
24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。
副管理人 阿井幸作(あい こうさく)
28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。
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このブログは、友達なんかは作らずに変な本ばかり読んでいた二人による文芸的なブログです。
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短編集:鎖不住的秘密
2011/09/05 [Mon] 23:55
鎖不住的秘密
編著:
北京偵探推理文芸協会
2010中国偵探推理小説精選系列
(2010年度中国探偵推理小説傑作シリーズ)
の副題からわかる通り、本書は第5回偵探推理小説グランプリで受賞した8作品が掲載されている短編集です。
その8作品のあらすじを説明する前に、まずは北京偵探推理文芸協会とは何ぞや?という質問に答えることにしましょう。ということで本書のそでの部分に記載されていた紹介を抄訳して転載。
北京偵探推理文芸協会は2004年に北京市民政局に批准されて成立した民間社会団体であり、目下中国では唯一探偵推理文学の研究や創作をする専門組織だ。
協会は中国オリジナル探偵推理小説の発展を唱えることを主な職務としており、全国的に探偵推理文学のイベントを開催したり、国内外の同行の士と学術交流を繰り広げている。
1,
花斑蝶/作:藍瑪
マフィアなのか紳士なのかわからない劉銘庄の元恋人陸瑩瑩は、街で偶然彼に関する情報を耳にする。彼の所在を知る人間にして、劉に兄を殺されたと噂される花斑蝶と仲良くなった陸は、花斑蝶に案内されるがまま劉の気配を近くに感じるようになるが…
花斑蝶の目的は兄を殺した劉への復讐なのか、それとも仇に恋愛感情が芽生えてしまった末の逃避行なのか。
2,
誤蓋弥彰/作:王稼駿
第2回島田荘司推理小説大賞
の最終選考には惜しくも残れなかった作家・王稼駿の手によるブラックなドタバタ喜劇。
タイトルは
欲蓋弥彰
(悪事は隠そうとすればするほど露呈しやすい)という成語をもじっている。するとこのタイトルの邦訳は
(隠し間違ってバレてしまう)
で正しいだろうか。
30歳年上で大会社の社長の夫が待つ自宅に帰宅した女が見たのは、部屋で血塗れになって死んでいる夫だった。しかも死体の傍らには妻である自分の名前が血文字で遺されている。
身に覚えのない女は浮気相手に電話をするが、不思議なことに呼び出し音は夫の部屋から聞こえてくる。部屋の中には彼女の浮気相手で夫の部下である男の携帯電話があった。ほどなくして浮気相手の男は忘れた携帯電話を取りにやって来るが、彼も部屋の惨状を見て絶句する。
2人は全くの無実なのだが、ダイイングメッセージと遺留品の存在、そして浮気という関係がある2人を警察が疑わないわけがない。そこで彼らは証拠隠滅を図り死体を処理しようとするが、家には死んだ夫と前妻の息子がやって来たり、コロンボみたいな警官がやってきたりして事態はドロ沼に嵌るようにまずくなっていく。
3,
我這様的人/作:水天一色
日本で翻訳小説も出版された女性の推理小説家。歴史物が得意な作家だとばかり思っていたら、現代物もきっちり抑えられる実力者である。
還暦にも差し掛かろうというのに会社でも家庭でもうだつの上がらない男が唯一自慢できるところは
『靳』
という珍しい苗字だけ。ところが会社に同じ苗字の
『靳』
というエリートが入社してきてから、下り坂だった男の人生に更にエッジが効いてくる。
結果、男は衝動的に殺人を犯してしまう。だけどこの短編で重要なのは、作品に徹頭徹尾描かれている惨めったらしい男の生き様である。会社が催した食べ放題パーティで、貧乏性を出した男が火鍋の具材であるエビをお皿に山のように盛って来て、自分の席までそろそろ歩くシーンなんか、60近くの中年がやっているのかと思うと正直見ていられない。
タイトルの『我這様的人』は作中で男がつぶやく言葉である。ここは
『オレってヤツは』
と訳すべきだろう。
4,
三十四胞胎的完美犯罪/作:楚州狂生
(34つ子の完全犯罪)
蘇州で銀行強盗事件が発生する。犯人の男は金を奪うと車で逃走。直ちに男を追う警察だったが、その同時刻に街の至るところで交通事故が起きて渋滞になり、犯人の車を取り逃してしまう。
交通事故を起こした人間は事故現場からすぐに立ち去ったが、目撃者や監視カメラの映像彼ら全員が犯人と瓜二つの格好をしており、その数は34人に上った。
強盗犯と交通事故を起こした34人に関係性があるのは明白だが、まさか34つ子なんてギネス級の兄弟はいるわけがない。
では、この34人はどうやって集められたのだろう?というのが本作品の主要なテーマ。オチを読めば、『ああなるほど』と納得できるものの、劇場型犯罪にありがちな愉快犯にしては主犯の強盗犯の行動がやや腑に落ちなかった。
5,
鎖不住的秘密/作:亦可
(繋ぎ止められない秘密)
とある空手クラブで起こった殺人事件に女性探偵・柯西は調査を開始する。調査に協力的なクラブの会員から証言を得ることは容易だったが、彼らの証言をまとめると数々の矛盾が生じてくる。
彼らの嘘の背後には過去にクラブで起きた事故が関係していた。一体誰が殺人を犯すほどの
【秘密】
を持っているのだろうか。
表題作だがそれほどのパワーはない。ただ、探偵の柯西が被疑者たちの矛盾点を次々に暴いていく様子には嫌味さもなければ傲慢さもないので、好き嫌いのない作品に仕上がっている。
6,
八月的旅/作:紀富強
田舎に里帰りした刑事・薛慶山が昔の恋人の家を尋ねると、彼女の娘が強姦の被害に遭っていたことを知る。犯人は同郷の人間に違いないと捜査を始める薛慶山であったが、容疑者として挙がったのは彼の兄弟やいとこ。
村という狭い世界での出来事なので事件の解明は加害者の家族の名誉まで傷つけると悟った薛慶山は、親族への情と警官としての正義感、そして元恋人の娘への愛情に挟まり苦悩する。
警察官という権力の象徴である薛慶山が村の外から現れ、村の内で権力を振るっていた真犯人を捕まえるという構図は、中国の田舎で悪事が発覚したときの典型的な図式に思える。だからこそ本作品の最終的なオチが、現実の中国でたまに起きる凶悪事件(反転注意:
教師によるクラスの女子児童連続強姦
)になぞらえているのが、作者が物語を
『置きにいった』
ように見えて鼻についた。
7,
紅蝙蝠/作:張建雄
大学教授司馬徳は生徒であり妻である白玲を殺した嫌疑で警察に拘留されている。女警官の執拗な尋問を老練な手管で交わす司馬徳だが、嫌疑は一向に晴れず、拘留は続く。かと言って女警官が出してくる犯罪の証拠も曖昧なものばかりで決定的な証拠は挙がらない。取調室という密室で容疑者と警官、2人の騙し合いが続く。
序盤は警官の勇み足が目立ち司馬徳が冤罪に見えるが、後半になるにつれ徐々に司馬徳の精神の危うさが浮き彫りになってくる。だが警官への疑わしさも捨てきれず、最後まで決着は着かない。
8,
血案/作:流金
公明正大でどんな脅迫にも屈することなく巨悪を暴いた正義の弁護士燕春来が無残な死体となって発見された。
失意に暮れる燕の娘燕子の前に唐突に現れたのは、かつて父親に命と名誉を救われた男だった。彼は燕春来を殺したのは自分だと語る。彼の自供により、誰からも尊敬されていた父親の裏の顔が明らかになってくる。
短編集のラストを飾るにはあまりにも後味が悪い作品。燕春来は殺されて当然の鬼畜だけど、殺されて誰が救われるようなこともない。物語に残された唯一つの希望が打ちひしがれた燕子の新たなる一歩にかかっていることが、物語の背筋を張り、作品に漂う絶望感を上手くまとめている。
感嘆させられるトリックはないものの、北京偵探倶推理文芸協会会員の実力が垣間見えるバラエティに富んだ短編集だった。
長くなってしまいましたが、これにてレビュー終わり。
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無題
Dokuta
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おお、北京偵探推理文芸協会の第5回グランプリ、結果が出てたんですか。この本が出版されていること自体は気付いていたんですが、この本が受賞作を集めた本だとは知りませんでした。
公式サイト( http://www.zhttl.org/index.html )の第5回グランプリ結果( http://www.zhttl.org/ljdse.html )がいつまでも掲載されないので、団体は存続しているものの賞の方は消えてしまったのかと思ってましたよ。
ググってみると、授賞式は8月28日にハルビンで行われたみたいですね。
ググったら受賞作リストも出てきましたが( http://blog.sina.com.cn/s/blog_3d2dce7d0100yvwu.html )、台湾からは既晴と寵物先生が「入围奖」を受賞してますね。
「提名奖」(ノミネート賞?)と「入围奖」(入選賞?)の違いがいまいちわかりませんが……。
一番楽しみにしていたのは、今までに松本清張や森村誠一、夏樹静子が受賞している翻訳作品賞だったんですが、今回は受賞作なしだったようですね。残念。
この本と同時にもう1冊のアンソロジー『生死翡翠湖』も出ているようなので、そちらのレビューも期待してお待ちしております(笑)
このアンソロジーは中国ミステリ界の現在の実力を示すものですし、どこかで是非邦訳してもらいたいものです。
2011/09/08(Thu)01:13:31
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re:無題
阿井
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受賞作と言っても、最優秀作品から入選作までけっこう大まかですよね。編者である于洪笙の好みなんでしょうか。
ちなみにこのブロガーの紀富強さんの作品『8月の旅』は事件が始まるまで長くて疲れました。サスペンス描写には迫力があったんですけど
『生死翡翠湖』ですか…実は中国アマゾンで本書を検索したとき、対となっているのに気付いて愕然としました。ボクが行った本屋にはありませんでしたので。
こうして見ますと歳月推理ばかり追っていては、いつまで経っても中国ミステリの全体像を掴めませんね。もっと精進して昼食代削って読書をしなければなりません。
2011/09/08(Thu)08:20:43
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