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栖鄭 椎(すてい しい)
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非公開
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1983/06/25
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 24歳、独身。人形のルリと二人暮し。契約社員で素人作家。どうしてもっと人の心を動かすものを俺は書けないんだろう。いつも悩んでいる……ただの筋少ファン。



副管理人 阿井幸作(あい こうさく)

 28歳、独身。北京に在住している、怪談とラヴクラフトが好きな元留学生・現社会人。中国で面白い小説(特に推理と怪奇)がないかと探しているが難航中。

 Mail: yominuku★gmail.com
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九度空間 著:赤蝶飛飛/中国文聯出版社

 

 

私は中国の小説をレビューする際はあまりネガテイブなことを書かないようにしています。何しろ中国の小説なんかレビュアー自体が少ないので私の拙い、場合によっては誤ったレビューがその作品と作者の評価になってしまうと私、作者、そしてレビューを読んでくれた方三者にとって良い結果を生まないからです。だからその作品が駄作であってもレビューするならなるべく面白かった箇所を取り上げようと思っていますし、批判する場合は中国のアマゾンや豆瓣などのレビューに目を通して、私の読み間違いということがないよう自分の理解が正しいか確かめてから書くことにしています。

しかし中国帰国後に読み進めていた赤蝶飛飛の『九度空間』が以下の三点で一般的な駄作から頭を一つ抜けていたので今回は取り上げることにしました。

 

1.年明け一冊目にレビューするにしてはあんまりな出来だった。

2.微博(マイクロブログ)で自分以外に批判している中国人がいて内容が更に辛辣だったから。

3.2に対する作者の弁解?が面白かったから。

 

さて、日本のクソゲー業界では年末には魔物が出てくると言われていますが、それは中国ミステリ/サスペンス小説業界にも当てはまるんでしょうかね。今回は201411月に出版され、その帯文に『スティーブン・キング的な始まり方、東野圭吾的な方程式による謎解き、ヒッチコック的などんでん返しの結末』と銘打たれ、更に『怪談協会』(中国のホラー映画)、『死神来了』(ファイナルディスティネーション)、『致命ID』(アイデンティティー)の総合体験とまで書かれた、いろんな作家や作品のキャラクターがごちゃ混ぜになった中国サスペンス小説のキメラこと『九度空間』を紹介します。

 

 

・あらすじと内容

 

中国のスティーブン・キングと呼ばれ、中国どころか世界的に有名なサスペンス作家・陳嵐の熱狂的な読者である10名の男女が彼の財産を継ぐために集められる。財産を受け継ぐ条件とは、陳嵐の新作である9つのサスペンスストーリーを外部との連絡が遮断された別荘で9日間聞くということであり、話を聞くにあたって9つのタブーを守らなければならなかった。だが初日にタブーを破った人間がいきなり死に読者は9人となり、更に陳嵐のストーリーに合わせたかのように毎日誰かが被害に遭う。これは呪いなのか、それとも財産を狙う何者かの犯行なのか。サスペンス作家のニューエイジ赤蝶飛飛の超長編シリーズ。

 

 

本書は作品の中で登場人物により本編と関係のある別の作品が展開されるという要するに入れ子方式です。ですがこの入れ子方式に問題があって、合計9話に及ぶ短篇の一つ一つがやたら長いのです。本書の合計ページ数が250ページに対し、第一話目が50ページ程度あるため、読んでいる時にちゃんと完結するのか不安になりましたが、なんと本作はこれ1冊では終わりません。上中下巻の3部構成になっているのです。だから帯に『超長編シリーズ』と書いていたのですね。(中下巻は未発売)

 

そしてストーリーを陳嵐が口述しているという体裁のため短篇が終わる度に本編へと戻るのですが、その際に読者たちがその短篇が如何に素晴らしかったか陳嵐を褒め称えます。それが作者赤蝶飛飛自身への自画自賛にしか見えません。そして、その短編自体がそれほど面白くないので、我々読者が作中の読者に全然感情移入できないのです。

本作にも主人公がいるので彼のみ一歩引いて冷静な目で短篇を批評することにより実際の読者と気分が共有でき、またその作品に込められた謎などを考えることができるのでしょうが、作中で微妙な出来の短篇を手放しで褒められるとまるで作家が私達読者にまで「さぁ褒めろ」と強要しているような気にさせられます。

またここが一番重要なのですが、本作はサスペンス小説のジャンルであり本書で発生する事件はどれも人外の力が働いているとしか思えないのですがその結末には決して「精神病」や「幻覚」、「二重人格」、「催眠」及び宇宙人や幽霊などの非常識な要素を謎解きに使わないと作者赤蝶飛飛は前書きで約束しています。

であれば、その言葉にウソがないことを証明するために、本書で起きた怪異にしか見えない事件の一つでも推理によって解決してほしかったのですが、本書はまるまる1冊使って『謎編』だけで終わります。

他にも色々言いたいことはあるのですが、3部作の大事な1冊目なのに2冊目以降買う気を起こさせない内容なのは作者云々ではなく出版社に問題があると思います。これ完結するんでしょうか。

 

 



・批判と反論

 

ネット上で本作『九度空間』を痛烈に批判しているのが『法制晩報』記者の競天澤です。彼は3度に分けてこの作品が如何にリアリティがなく矛盾点が多いかを指摘し、また盗作疑惑にまで言及しています。中にはちょっと無粋なツッコミもあるのですが、我々読者の言いたいことを細かく代言してくれていると思います。特に2回目の「9人の読者のキャラの区別が付かない」って意見には、その通りとしか言えません。

 
競天澤の九度空間レビュー1
競天澤の九度空間レビュー2
競天澤の九度空間レビュー完結編

それに対し、赤蝶飛飛は微博で反論及び謝罪をしていますが、この3にある「そして誰もいなくなった」と「シャッターアイランド」は読んだことがないから盗作疑惑は全くの事実無根っていう返答は作家としてマズイのでは?とハラハラさせられます。いまどき「そして誰もいなくなった」に似ているって言われても痛くも痒くもないと思うのですがね。

 赤蝶飛飛の声明

 

・今年は何冊東野圭吾の名前が付いた本が出るのだろう

 

今回もまた中国ミステリ/サスペンスの層の薄さを実感することになりましたが、その原因が作家個人の力量というよりも出版社や編集者のミステリ/サスペンスに対する無理解がありそうです。

しかし一方で注目したいことは、赤蝶飛飛が本書以外にまだ1冊しか本を出版しておらず、元々はオンライン作家であった新人であるということです。新人作家に3部構成が予定されている作品を世に出す機会を与えることは、例えそれが「帯文に東野圭吾の名前を書いたサスペンスやミステリを出しておけば売れるだろう」という安易な発想から生まれた企画だとしても、中国ミステリ/サスペンス業界において新人が活躍できる場所が用意されていることを意味しています。

 

本書は正直言って年明け最初に読む本としては全く不適当な内容でしたが、つまらないながらも本書を通じて中国ミステリ/サスペンスに一つの見通しを立てられ、今年もレビューを頑張っていけそうな気がしました。

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