役得と言うべきか。ひょんなことからツテで柔道のチケットを頂いたので、友人と二人で会場である北京科技大学へ行きました。
会場入り口での手荷物検査は意外とゆるいようでカバンはX線検査をするだけで開けて調べられることはありません。また観客の体に機械を当てて金属検査をするのはボランティアの学生なんですが、彼らは少しそれを楽しんでる節がありました。何千人も検査している内にハイになっちゃったんでしょうね。
席は前列二列目という申し分のない最高の席。戦う選手たちの歪んだ表情まで見て取れる。しかしかなり特別な席なので周りに日本人応援団はいない。
試合は格別面白い内容のものはなかったけど、組む前に選手同士がボクシングで拳を突き合わせるように手を叩き合ったり、『組む』よりも『持ち上げる』技が多かったのが気になった。
いよいよ鈴木の試合の時間になると会場のあちこちで日の丸が揚がった。ボクらも負けじと日本人席でもない場所で『鈴木』と書いた紙を掲げ、国旗を振り、声援を送った。
周りにいる中国人(こんな前の席に座ってるなんておそらく普通の中国人じゃないだろう)が「お前ら日本人だったの?」という目で見た。なにせ中国人選手楊秀麗に中国国旗を振って「加油加油」って言ってたんだから、そりゃ不思議に見えるよな。
鈴木の相手のモンゴル人選手は小柄な体躯を活かしてもろ手刈りをしかけて来る猪突猛進の戦い方で鈴木に苦戦を強いた。そして数度目の突進で鈴木の懐に入り両脚を持ち上げるとそのままの体勢で無理矢理走り、鈴木の体を畳に叩き付けた。
あれ・・・どうした?まさか一本か?でも鈴木が倒されたのは紛れもなく場外、だけどモンゴル人選手の足がまだ残っていた気がするし、主審はまだ「待て」をかけていない・・・
と逡巡しているうちに主審が片手を高々と挙げた。その瞬間、ボクの体にはなにか恐ろしいものに声をかけられたように寒気が走った。まるで当たるはずのない牌でロンされたときみたいに友人と二人で呆然としていた。いや、驚いていたのはボクらだけではない。脚を持ち上げられたときの鈴木も意表を突かれた顔をしていた。
続いて行われた女子の中沢はポイントを取られた後相手に時間を良いように使われて何もさせてもらえてなかった。
あとの頼みは鈴木に勝ったモンゴル人が勝ち進んで敗者復活戦を戦うということなので、これからモンゴル人を応援することに。
二回戦 モンゴル人対ドイツ人
(白がモンゴル人)
三回戦 モンゴル人対韓国人
(青がモンゴル人)
すると彼と戦う二回戦目のドイツ人も三回戦目の韓国人も彼のもろ手刈りを警戒して腰を引いている。しかしそんな体勢で自分の柔道ができるわけがない。お互いが不利な状況に見えるが、この展開でもモンゴル人に分がありポイントを取って優勢勝ちをおさめる。韓国人はもろ手刈りを利用して逆に払い腰を仕掛けたが、それは場外に終わった。
どうも鈴木はデータ不足だったようだと納得し気を取り直して敗者復活戦に集中する。モンゴル人が準決勝に進出したから鈴木は復活戦の権利を得たのだ。
そしたら今度は横車で一本だ。
うずくまる鈴木。だけど見てるこっちも泣きたくなった。さっきの試合はデータ不足とか場外疑惑とかいろいろ言い訳がつくが、こればかりは何も言えない。鈴木は負けたのだ。
うなだれるボクらに隣の中国人のオッサンが声をかけてくれたが苦笑いで応えるしかなかった。
試合で手を合わせる選手たち、タックルが主体となった戦法、外国人が叫ぶ「IPPON!!」「WAZAARI!!」の声に柔道はもうJUDOなのだと思い知った五輪観戦だった。