あの◯◯っていうお店、日本の有名店と同じ名前だけど全然関係ないんだってね。という話はよく耳にするものの、そもそも日本の有名店に行ったことのない私はその噂を聞いても実際気にしたことはなかった。
例えば北京で有名な日本式のトンコツラーメン屋『無敵家』は池袋の『無敵家』と名前が同じであるがそれ以外に関係性はなく、日本の有名焼肉店『鶴一』と同じ名前の焼肉屋だって実際には日本の本店と何の関係もないようだ。
こっちに暮らす人間としては、ニセモノであっても美味ければどうでもいいと思うのかあまり問題視しない。海賊版DVDを購入する際は「中国では本物を手に入れることが難しいから仕方ない」と若干の罪の意識を感じるものの、こういう店で食事をするときはそんな罪悪感すら浮かばない。
日本人の知らないところで日本の有名店と同じ名前のお店が北京にオープンし、日本人から評判を得ている。日本の有名焼肉店『叙々苑』の名前を真似た焼肉店『叙上苑』はまだ可愛い部類に入るだろう。
さて、今年7月に北京で日本から来た1軒のラーメン屋がオープンするはずだった。「はずだった」と言うのはこの店、プレオープン後にいきなり休業して今日に至るまで再開する気配がないからだ。
その店の名は『豚旨 うま屋ラーメン』。日本の愛知県に本店を構え、中部地方にチェーン展開を続けているとんこつしょうゆラーメンとチャーハンが自慢のラーメン屋だ。
この店がオープンすると知ったのは北京で日本人向けに発行されているフリーペーパーの新店舗紹介を読んだからで、フリーペーパー各紙には愛知県の『豚旨 うま屋ラーメン』の支店であるという旨の宣伝文が書かれていた。
フリーペーパー誌『コンシェルジュ』や『ウェネバー』のウェブサイトを見ると、確かに『愛知県発祥、上海でも評判を博した話題のラーメン店がついに北京に登場!』とある。
コンシェルジュ ちゃいなび北京
http://www.chainavi.cn/beijing/user.html?sid=22241715
ウェネバー北京
http://whenever-online.com/store/bj_store/bj_gourmet/1928.html
しかし、私が既にオープンしているはずの7月初めに行ったところ、プレオープンの貼り紙が貼っているというのに店は開いておらず、そればかりか店内の様子は準備中というよりも閉店のようだった。
この店と同グループであるはずのカレー屋とケーキ屋も同様に閉まっており、それ以降もちょくちょく様子を見に行ったが開店する気配はなかった。
6月末には確かに開いていたという情報と、味は美味しかったという評価も聞いていたので、これは何かトラブルに巻き込まれて閉店または休業に追い込まれたのだろうと考えていたのだが、先日『豚旨うま屋ラーメン』のHPを見て事態が予想を上回っていることを思い知った。
『豚旨うま屋ラーメン』によると上海で『うま屋』という称号を使っている飲食店はグループとは全く関係のない店という。わざわざ赤文字で『重要なお知らせ』と書いているところを見るに、グループ側も問題視していると言うことだろうか。
豚旨 うま屋ラーメン
http://www.umaya.co.jp/
ではこの上海のお店はどうかと言うと、今度はフリーペーパー誌『ウェネバー』の上海版ウェブサイトを参考にさせてもらうと、ここにもやはり愛知にあるうま屋ラーメンとの関連性が書かれている。
ウェネバー上海
http://whenever-online.com/store/sh_store/sh_gourmet/861.html
それに上海店も北京店もメニューの写真が本店のものとお皿まで同じとは恐れ入る。
ここまで似せられて且つフリーペーパーに紹介されたことも相まってか、上海の日本人はここがうま屋ラーメンの上海支店だと思い込んでいる。
だが本店いわく、ここは愛知の『豚旨うま屋ラーメン』と全く関係のないラーメン屋なのだ。
http://www.china-ramen.net/?p=349
上海にあるうま屋ラーメンの中国語名は無敵呷日式拉麺と言って到底「UMAYA」とは言えない発音だ。この無敵の文字を見るに、まさか無敵家が絡んでないよなぁと深読みしてしまう。
前述のフリーペーパーの宣伝文から北京の店は上海のお店と関連があるように読める。では商標権の侵害かなんかで本店からクレームが入り、北京店は営業を停止したのだろうか。しかし上海のお店はまだ運営しているのが不思議である。(電話で確認済)
メニューやお皿まで同じものを使い、尚且つ旨い(上海在住の方のブログや、北京店に行った人の感想)ということは無関係とは言えども何か深いわけがありそうだと考えられるが、それ以上は推測するしか無い。
これまで北京にあるパクリ飲食店を取り上げてきたが、それらは全て中国人が経営する店だった。しかし、上記の『無敵家』と『鶴一』、そして『豚旨 うま屋ラーメン』は確かに日本人が絡んでいた。それが経営レベルで関係しているのか、それとも店長や料理人として雇われているだけなのかは不明だが、日本人が日本のお店をパクった飲食店に関与していることは明らかだ。
日本人によるパクリ。それは北京だからあり得る話でもないだろう。
『豚旨 うま屋ラーメン』以外に池袋の『無敵家』も鶴橋の『鶴一』もホームページ上でちゃんと支店の情報を載せ、それ以外の店が自分たちとは全く関係ないことを表明している。日本でも同名の店があって迷惑をしているらしいことがわかる。
無敵家ホームページ
http://www.mutekiya.com/
鶴一ホームページ
http://www.turu1.co.jp/
それに対して、中国に正式な支店がある『まるきんラーメン』は自身のホームページ上で北京と上海に支店があることをきちんと説明している。
まるきんラーメン ニュース
http://www.maru-kin.co.jp/news/news.html
日本人によるパクリ飲食店が厄介なのは中国人の飲食店より味が一段上にあるということにあるだろう。
これらは「美味ければどうでもいい」という客の意識に支えられ、むしろ感謝される立場となる。
外国生活において、美味い日本食とは極めて抗いがたい存在だ。だから、胃袋を人質に取られている以上、パクリだから行かないなんて選択肢はない。
それに、これらのお店の名前が一緒であるというだけで責めることは本店にしか出来ないだろう。責めたところでこれらの店にどんな罪があるのかもわからない。
しかし、このようなお店があると正式な支店が迷惑を被るに違いない。私は北海道民として、北京にある北海道らーめん『え~やん』が果たして正式な北京支店なのか気になって仕方がない。
だから中国に進出する日本の飲食店には是非とも公式ホームページ上でその紹介をしてもらいたいです。こっちのフリーペーパーは上述の通り、客の話したことを鵜呑みにして記事を書くだけですから。
未だに間違った情報を訂正しない姿勢に信頼は寄せられませんが、こういうパクリ店を載せた責任はないのでしょうかね。 北京にある『無敵家』なら元々池袋にある『無敵家』と関係性を謳っておりませんので、同名の別店ということで済ませられますが、『鶴一』とか『うま屋ラーメン』には本店が否定している以上、『日本の有名店が!!』っていうキャッチコピーを付けてはいけないと思うんですが。
厄介なのは、「本店はそう言ってるけどうちはちゃんと許可取ってるからね」と言われ、なんか面倒くさい後継者争いに巻き込まれてしまうことだ。あっちに言い分があればこっちにも言い分があるだろう。
『無敵家』も『鶴一』も、そして『うま屋ラーメン』も店がお客さんで賑わい、美味しいって評判をもらっているんだから最初っから名前を真似ずに勝負して欲しかった。しかし有名店の名前を使うという手法が日本国内外問わず、一番の宣伝になるんだろう。
日本の企業や飲食店の中国進出において敵は中国人だけではないと改めて感じた。