中国のニュース番組を見ていると、現行犯逮捕されたスピード違反者が愚痴をこぼす姿や、警察署の一室で反省を述べる犯罪者の生の姿がよく映る。顔にはモザイク処理などされていないし、犯罪者たちもカメラをそれほど意識してはいない様子だ。
日本とは異なり裁判所の中も撮影が許されているらしく、法廷でうな垂れる被告人の姿を見ることも出来る。
犯罪者を公開することで犯罪の抑止を企てている公安の思惑は、しかし最近空回り気味である。
兼ねてから売春婦や軽犯罪者を大衆の面前にさらし者にするやり方がネット上で反発を招いていた。そして先ごろに報道された一枚の写真が今回の改名騒動のきっかけになった。
※注意:リンク先は中国のサイト。裸の女性の写真があります。
12月11日公安部治安管理局は『以前は売春婦と呼んでいた彼女たちを不良女性と呼ぶことにして、特殊な仕事をしている人々も尊重するべき』と声明を発表。
また11月28日には社会保障部や全国婦女連合などに売春婦の人権や健康、名誉やプライバシーを保障し、差別や暴力を加えてはならず、捕まえた彼女らを大衆の面前に曝すことのないようにとも通告した。
原文は以前叫卖淫,现在可以叫失足妇女である。
『失足』とは[歩行中に足を踏み外す][重大な過ちを犯す]という意味だ。もちろんここでは後者の意味が適用される。
性産業に従事する女性の権利が向上するのは別に構わないが、公安の発表は違法な仕事を選ばざるを得ない国民を救済する根本的な解決にはなっていない。『売春婦』を『不良女性』と言い換えて、国民の道徳観念に訴えようとしても言葉のエグさがなくなっただけでヤルことが緩くなるわけではない。
公安のズレた対応にネットの反応は冷淡だ。
『失足婦女』と名前を変えても売春婦はいなくなるわけではないし、合法化されて社会に受け入れられるわけでもない。そもそもそんな改革やるんならまずは買春する汚職官僚の方をなんとかしろよ、と理性的なツッコミが相次ぐ。
しかし中国は売春や風俗をすべて違法として厳罰をもって取り締まるが、発覚さえしなければ非常に寛容でもある。
通りに面した店の並びにはピンク色でライトアップされた如何にもいかがわしい床屋やマッサージ屋が堂々と営業しており、店内をのぞくと決して専門的な技量があるとは思えない女性たちが暇そうにテレビを見ている。
道を歩いていると「DVDいるかい?」と声をかけるオバサンに引っかかる。売っているのはエロDVDだ。「いる」と答えると粗末なビニール袋に包んだディスクを数十枚取り出して、体でディスクを覆い隠しながら値段交渉をしてくる。一度オジサンが買っているところを見たことがあるが、DVDの表面には金髪で明らかに幼児の裸体が印刷されていた。気のせいだと思いたい。
マンションのドアの隙間には毎日エロマッサージ店の名刺サイズのチラシが捻じ込まれる。住所は書いておらず、大きく書かれた携帯電話の番号だけがその店との連絡手段だ。名刺の表にはグーグルか百度の画像検索から持ってきたのか、露出の多い美人の女性の写真が印刷されている。
知り合いは昔、小倉優子の写真が載ったチラシを見たことがあるそうだ。
何かないかとゴミを漁ってみたら、ほしのあきに似た女性の名刺を発見。
KTVでは女の子が隣に座ってお酌するだけで終わるはずがない。今年の5月には北京で特に有名だった天上人間というKTVで売春行為が発覚し、半年間の営業停止処分を受けた。
しかし求人サイトでは多くのKTVが堂々と女の子を募集しているのだから、だいぶ面の皮が厚い。
法律の庇護もなく、労働法も適用されない彼女たちは世間から黙認という形で受け入れられ、ひとたびお上の目に留まれば不特定多数の世間の目に曝される。
相矛盾する捉えられ方をなんとかしなければ、違法性産業と公安の取り締まりは永遠のイタチごっこになりそうだ。
しかし『失足』という単語は響きが軽い。この呼び方が公認されて、以降売春婦を『失足婦女』とし売春行為を『失足』と表現するのが一般化されれば、どこでも使える流行語になりそうである。
今日も失足しちゃってぇ、2,000元も稼いじゃったぁ。
オジサンちょっと失足しない?1回400元よ。
アレ、なんか敷居が低くなってないか……