伊藤潤二先生の新刊が出てた。
カバーになっている四人が主人公です。(下の女の子から反時計回りに マルソー タブロー 薔薇っち ピータン)
名前からお察し頂けるかもしれませんが、彼らは全員ハンドルネームを名乗っています。
ネットの自殺サイトで知り合った彼らは集団自殺をしに行くのですが、怪奇現象に阻まれ成し遂げられず終わるのです。それで二話目は果たせなかった集団自殺をやり直しに行くっていう始まりなんですが、ここらへんで集団自殺をするたびにハプニングが起こって結局死ねないっていう流れで最後まで行くホラーコメディだなと勘繰りました。
でもそんなもん羅漢果よりも甘ったるい推測でした。
糖度は砂糖の300倍とも400倍とも言われる。なんでそんな差が出るんだ。
四人は一話での失敗があるので疑心暗鬼になり睡眠薬を呑まないのですが、ピータン(顔の長い人)だけが正直にオーバードーズしていました。だが彼は死ぬどころか急に目を覚ますと、口から綺麗な石を吐き出します。
調べた結果なんとそれは霊界に存在する物質であったのです。
なんでピータンからこんな石が・・・・・・
睡眠薬を飲んで死にかけたピータンは偶然生き返ったんだけど何かの作用で身体に霊界とのパイプが出来てしまったのよ。
何かの作用って何?!
こんな投げやりな理由、現代のホラーならもうやっちゃいけない説明です。だけど地獄星レミナとかギョとかとんでもない漫画を読まされていた読者にしてみればよっぽどマシなロジックだと思い込んでしまうから、本当に伊藤先生は恐ろしいです。
パラドナイトと名付けられた石は、その美しさと中に貯蔵されている膨大なエネルギーによって『上』の目に留まります。そして『パラドナイト計画』が企画され、四人は石を集める役割を背負う重要人物となるのですが、パラドナイトには秘密があったのです。
ラストでマルソーの口からパラドナイトの正体が明かされるわけですが、ここに来てこの物語の意味するところが究極の自分探しだとわかります。それというのも、そもそも何故四人が自殺を選んだのか。それはマルソーを除く三人が自分の存在に不安を持ったからです。しかしパラドナイトが彼らの存在を確立させてくれるわけです。
タイトルであるブラックパラドクス(真っ黒な矛盾)という意味も石の正体がわかるとはっきりします。確かに四人はもう自殺することなど考えず、『上』の期待を担い人類のために石集めの仕事をこなすのですが、当初の目的である『集団自殺』も緩やかに進行しているのです。
伊藤先生の漫画はルール無用の超展開が珍しくないのですが、本書の読後は内容の面白さよりも伊藤先生なのに納得のいくストーリー展開に感動しました。
もう一篇収録されている読み切りの『舐め女』も良いです。グロテスクな化物が動き回る様は気持ち悪いんですが、躍動感のある絵がギャグになってしまう伊藤先生らしい作品です。
『ブラックパラドクス』はグロがなくて物足りないかもしれませんが、伊藤先生ならではの突飛なストーリー展開が常人が理解できるくらい抑えられているので読みやすいです。そして『舐め女』は伊藤先生お得意の生理的嫌悪感を催させ、触感に訴えるホラー漫画になっているので、本書は伊藤潤二未体験の方にお薦めの一冊です。