The Baker Street Letters (著)Michael Robertson
福尔摩斯先生收 (訳)王欣欣
アメリカ発のミステリー小説中国語翻訳版。格好良い装丁に目を惹かれて買ったのだが、帰宅後調べると本書がまだ日本では翻訳されて発売されていないことを知り、読む前から喜びを味わった。ちなみに本書は大陸よりも先に台湾で出版されていてベストセラーとなっている。
主人公のReggie(中国語で雷吉)は弁護士事務所を自分の弟Nigel(中国語で耐吉)らとともに立ち上げたのだが、その住所が世界で最も有名な探偵事務所があった場所、ロンドンのベーカー街221Bだったので連日届くシャーロック・ホームズ宛の手紙に悩まされていた。
事務所を設立する以前からずっとこの住所宛に届いた手紙の数々を保管してある倉庫を整理すると、20年前にロスアンゼルスから何かのデータ表が同封された『父親を探して欲しい』と書かれた女の子からの手紙を発見する。しかし奇妙なことにその手紙が届いた20年後となるReggieたちが事務所を構えてから再び、その女の子と同じ名前同じ筆跡の手紙が届く。
粗筋だけ読めばこの後弁護士の兄弟がホームズに代わって謎を解き明かして人助けをする、足長オジサン的なストーリーが展開されるのではと思うが、ここから何人も人が死んでいく。弟Nigelは手紙の差出人を心配し兄に黙って事務所から姿を消し、社内では他殺死体が発見され弟が容疑者として指名手配される。兄のReggieは弟の無実を信じて単身ロスアンゼルスに乗り込み、手紙の送り主と弟を探しに行くことになる。そして20年前と現在の手紙が結ぶ真相が、ロスに新設される地下鉄の利権だと推理するに至る。
本書はホームズリスペクトの小説になるのかもしれないが、主人公のReggieはホームズらしい推理などしない。ロス市内を駆けずり回ってようやく真相に辿り着くという、ワトソン不在の苦労の多い現代的な探偵である。職業としてではなく立場としての探偵にすぎない。
ボク自身シャーロキアンではないので、もしかしたら作中にホームズファンを唸らせる仕掛けが施されていたのかもしれないが、パロディめいた描写は見当たらない。
最終局面で黒幕の本拠地に乗り込んだReggieが黒幕の一人に掻き集めた証拠をつきつけ、敵の計画と自信をネチネチと崩していく口撃シーンは推理小説お馴染みの胸のすく結末であるものの、『シャーロック・ホームズへ』とタイトルで銘打っているのにホームズらしさが足りない。ちなみにバリツなんか出ない。
あと、ヒロイン役で幼少時代ホームズへ手紙を出した女の子が28歳の女性として登場する。一応美人という設定が与えられているのだが、これが28歳の癖に度が過ぎたファザコンで、ボディーガードとして飼っている大型犬が本当に危険な動物なので、全く可愛いと思えなかった。
だからボクの中で作中最ヒロインは、会ったこともない女性の身を案じて仕事も兄も放り出してアメリカまで来て、2回も地元警察のお世話になるNigel(耐吉)に決まりだ。
タイトル詐欺というかシャーロキアンやミステリ好きならついつい買ってしまうタイトルの割りに、中身はそこらへんにあるサスペンス系ミステリだったのが残念。タイトルを含めた竜頭蛇尾感が否めない作品だった。
ちなみに本作は映画化の企画が既に進行しているようなので、本書が日本で出版されるのは映画公開と同じタイミングになるかもしれない。