購入した同人誌・グッズの数々
縛の美 100元
複数の作家による艦これキャラ合同緊縛SMイラスト集。今回買った同人の中で一番エロかった。普通に冬コミでも売れると思う。
天朝鉄甲戦姫 150元
中国の戦艦を擬人化したイラスト集。しかし中国史に登場する軍艦も対象にしているようで日本の軍艦もよく出る。
BATTLEGIRLS 1 70元
各国の軍人を美少女キャラに見立てたイラスト集。
百鬼笙歌 120元
アニメ・モノノ怪を題材にしたイラスト集。描かれている妖怪はアニメには登場しないオリジナル(何か変な言い方だが)だろうか。
萌山海経1+2 60元
その名の通り、山海経に出てくる妖怪等を萌えキャラにしたイラスト集。
薬王異聞録 30元
古代中国を舞台にした中華ファンタジーマンガ。
山海奇異誌 35元
またしても山海経のイラスト集。山海経は今や創作に欠かせない題材だ。
幻想大図鑑+POST GOLDEN AGE 150元
東方の同人設定集+レトロ感ある英国的雰囲気が漂うイラスト集。
幻想女僕Café 60元
東方のキャラをメイドにしたイラスト集。このガバガバ日本語が逆に安心する。
東方繁絵帳+幻想推理 65元
鉛筆で書いたような緻密なタッチのイラスト集と推理小説。
宮水制酒2+妄想デレマス野球 100元
妄想デレマス野球は実在の野球選手をデレマスキャラに見立てて描いたイラスト集。野球をテーマにしているのに敢えて姫川友紀を描かないところに凄いこだわりを感じる。宮水制酒2は1と同様、日本の同人事情を書いたレポートだ。
IMAS-CG MATOME01 40元
台湾?作家の合同同人誌。デレマスキャラのイラスト集でちょっと過激だ。今年の冬コミにもこれで参加するのだろうか。作者のTOMATOは前回CP20の時にけもフレの同人イラスト集を出していた気がする。
墨白 100元
アニメ・漫画キャラを水墨画風のタッチで描く極道画師のイラスト集。
ALETHIA 1 50元
エラい達者な中国語を喋る外国人女性が売っていた英語のSF漫画。オマケには中国語訳の冊子がついてくる。現在8巻まで出ていてまだ終わってないそう。
JOKERマウスパッド 20元
北京のイベントで知り合った巻毛明叔というアメコミ二次創作専門の人が売っているグッズ。
FATEコースター 30元
左にある酷い言葉が書かれた「無料」のポストカード目当てで買った。
合計1,180元(約20,200円)
前回のCP20の消費は600元ぐらいだったが今回はその倍だ。これは私の支払い方法が現金払いから電子マネー払いに移行したからだろう。財布の中身を気にせず買い物ができるようになった。
CP21では個人的にWechatやAlipayの電子マネーが大活躍した。おそらく全てのブースが電子マネーに対応していたが、WechatやAlipay両方対応しているところもあれば、Alipayのみというところもあった。私のスマホにはAlipay機能がないので、そういう時は現金払いだった。電子マネーだと財布の中身を気にせずいくらでも使えるので、帰宅してから使った金額データを見て冷や汗を流すことにもなる。気付いたら大金を失っている同人イベントにおいてこれは諸刃の剣にもなりかねないが、消費金額をはっきりする上でこの方が便利だ。
知人Aの戦利品
知人Bの戦利品
Aはオリジナルの耽美系が目立ち、Bはイラスト集や擬人化が目立つ。そして私は主に二次創作だ。同じイベントに行ったというのに買う物は三者三様だ。3人共1,000元程度使ったが、もし『陰陽師』や『僕のヒーローアカデミア』などのメジャータイトルを知っていたら更に散財していただろう。
逆に言うと、多くのブースが出展しているそれらのジャンルを知らないと、COMICUPを十二分に楽しめたとは言えないのではないだろうか。もちろんメジャータイトルを知らなくてもCPを楽しめるが、「知らない」というだけで面白い物を見逃しているのではという気はする。
12月9日(土曜)と10日(金曜)、上海の新国際博覧中心で同人即売会COMICUP21(CP21)が開かれた。
前回5月に同場所で開催されたCP20にハマってしまった私は今回も当然参加。
CP20の模様などはここに書いているので興味がある人は読んでほしい。
8日(金曜)に会社から高鉄(高速鉄道)に乗り、約6時間かけて上海虹橋駅に到着し、付近のユースホステルに着いたのは深夜12時過ぎ。本番を控えてこの日はすぐに就寝。
本番の翌9日は朝8時過ぎにホテルを出て地下鉄に乗り、会場付近の7号線の花木路駅に着いたのはそれから1時間後。花木路駅のプラットフォームや改札口付近にコスプレイヤーがたむろしている。着替えや化粧をしている子らも少なくない。
CP21は午前10時開場だ。その時間前にすでに大行列が出来ており、一般来場者はその時刻からようやく入場できるが、VIPチケット購入者は8時に事前入場ができ、並ぶ必要もない。
しかし6時半のほぼ始発の地下鉄に乗り、8時前に会場に着いた知人たちの情報によると、上海にしては寒い天気の中並ぶ入場者に運営側が優しさを見せたのか、8時半には開場して中に入れたという。一般来場者は入場してから会場に入るまでも長い時間歩く必要があるが、これでますますVIPチケットの存在価値がわからなくなった。
中国の同人イベントは大体有料だ。CP21では、事前予約の通常チケットが1枚48元だったが、当日チケットは60元(1元17元)。VIPチケットは1枚99元だった。もちろんVIPチケットは予約の段階ですぐ完売するので普通チケットの2倍の値段というわけだが、通常チケットと入場時間があまり変わらないのであれば購入者は少し損をした気分にならないのだろうか。
ちなみに上記の知人たちは事前に9日と10日の2日分のチケットを購入したのだが、11月に北京大興区の火災により進められた宅配物倉庫整理のせいで起きた宅配便の遅配が原因でチケットが届かず、当日現場で購入することになった。だから日本のコミケのように始発の地下鉄に乗ったのである。
結局私も9時過ぎには入場。しかし入場してから会場に入るまで5分以上歩いた。CP20より入場してからの距離が長くなっているような気がする。
写真はチケット改札場所の様子だ。「実体票」が要するに普通の紙のチケットで、「電子票」が電子チケットだ。前回は電子チケットの確認がやたらチンタラしていたのでこれには期待していなかったのだが今回はスムーズだった。これなら次回から電子チケットを購入しても良いかもしれない。
会場―同人エリアの様子
CP20の時は同人エリア2館と企業エリア1館の計3館を使用していた記憶がある。今回は2館と2館の計4館で企業エリアの規模が増えたが、同人ブースも数が増えた。
CPの同人ブースはやはり女性向けが多い印象だ。『ユーリ!』や『僕のヒーローアカデミア』など日本と同じジャンルの他、『陰陽師』や『全職高手』など中国オリジナルのジャンルや『布袋劇』という中国独自のコーナーもある。
当然来場者も女性の方が多い…気がする。少なくとも、同人エリアには女性来場者の方が多い。だからVIPチケットの購入者も大体が女性なのだろう。なにせ人気があり行列ができているブースに並んでいるのは大抵女性だった。特に今回で言うと「StudioRS現実幻境」というサークルは1日中行列が途切れることなく、2日目の10日はすでに画集など売り切れていたのにオマケ目当てにまだ大勢が並んでいた。
中国の同人即売会を語る上で「オマケ」は一目に値する存在だ。中国語で「無料」と書くオマケはポストカードやポスターなどの他、クリアファイルやミニ冊子なども含まれる。おそらく日本語から来ているだろう「無料」にお金を払う必要はないが、お金で買えないという厄介な面も持ち、購入品とセットでサービスとして付いてきて、「無料」だけを配るサークルは少ない。「無料」欲しさにグッズや本を購入するようになったら中国の同人即売会にハマっている証拠だ。
この「無料」文化は何なのか。日本のコミケ事情を知る知人は、中国だと公式グッズとバッティングする恐れがないからここまで豊富な種類の「無料」グッズが生まれたのではと言っていた。さもありなん。
しかしこの「無料」、良い物ばかりではなく正直言って欲しくない物も多い。私がある同人誌を購入しようとした時、それと一緒にポスターと袋まで付けてくれたのだが、荷物が多くなるから同人誌だけくれとサークルに言うと「本だけじゃ売れない。サービスだからもらってくれ」と押し付けられた。
サークル側も全員が上海暮らしというわけではなく私のように北京などから出てきた人間も多い。だから売れ残りを持って家に帰りたくないのだろう。しかしポスターはともかく袋はデカイし使い道はないしで全く無用だ。
もらった「無料」の品々
袋・ポストカード・クリアファイル・うちわ?・冊子など
同人サークル
今回目立ったサークルは圧倒的な行列の長さを誇った前述の「StudioRS現実幻境」だ。その他行列を作っていたのもやはり女性向けサークルが多く、正直私にはそれがオリジナル同人なのか二次創作なのか、そして中国のものなのかどうかすらもピンとこなかった。
東方の島では設定集を販売し、事前に微博で何度も宣伝をしていた「」というサークルが行列を作っていた。私も並んで購入した。
その他、東方の音楽関係サークルではビートまりおを始めとする日本から来たサークルも多く、あちこちで日本語が聞こえた。翌10日に上海の別の場所で東方のミュージックフェスティバルが開催されたのだが、彼らはそこにも参加したのだろうか。東方関係以外で日本人が出展しているところはなかった、と思うが実際は不明。FATEの島で日本語を聞いたという情報はあった。
今回は早い段階で現金払いから微信支付(WeChat Pay)に切り替えたためか、購入した同人誌の数はCP20よりだいぶ多かった。ほとんどのサークルが微信支付か支付宝のどちらかに対応しており、サークル側も現金より電子マネーの方が便利そうだった。
サークルによっては支付宝(Alipay)しか対応していないところもあり、私のスマホにはそのアプリがないのでそういうところは現金で払うしかなかった。いくら使ったかデータが残るので、次回からは電子マネー払いをメインにしていったほうがいいかもしれない。
支付宝オンリーのサークル
微信支付と支付宝どちらもOKのサークル
同人エリアの端っこに小さな企業ブースがある。
ディズニー映画『リトルマーメイド』のデザイナーPHILO BARNHARTはCP20に引き続き今回もいて画集にサインとイラストを描いていた。PHILO BARNHARTは宇宙の銀河を切り取ったかのような派手なジャケットを着ていたのを覚えている。
成都で『COMIDAY』という中国語のアニメ情報誌を出版している会社があった。
しかし話を聞いてみると、この雑誌は出版しているが市場に出ることはないようで、今回のようなイベントでのみ販売しているのだと言う。日本と中国のアニメ事情を特集したり、有名な監督らのインタビューを掲載していたり面白い内容だった。
日本からセル画?を売るブースが来ていたがこれがちょっと近寄りがたい雰囲気を出していた。ブースの中は日本人の中年男性だけ。外に看板も出しておらず遠目から見ると何を売っているのかわからない。やっと来た客がセル画の値段を尋ねるとようやく電卓を出して日本円から人民元に換算する始末。
本人たちにはそのつもりはないんだろうが、感じが悪いし不気味だったし色々対応がお粗末だった。
そこではエロイラスト集も売られていたがどうもどっかで見た絵柄だったので有名な漫画家だったのかもしれない。だが個人的感想を言うと、コンセプトもないエロ同人誌(しかも古い)を売るぐらいなら中国向けに新しいイラスト1枚でも描いた方が断然マシだと思う。
おそらくこのブースはCP20で士貴智志サイン会をやっていたところと同じ会社だろう。CP20のときは漫画家本人が色紙にかなり丁寧なイラストとサインを描いていたせいでファンとの交流が全然できず、それもどうだろうと思ったのだが、今回に比べたらだいぶマシだ。流れ作業で大勢のファンにサインだけするのではなく、1枚のイラストに集中するという企画は面白いし希少価値があるが、今回のコレはなんだったんだろうか。もし次回も出展するのならせめて何をしているブースなのかポスターとか貼ってくれ。
福爾摩斯症候群(ホームズ症候群)
(フランス語タイトル:Le Mystere Sherlock)著者:J.M.Erre
仕事が一段落付いたので久々のブログ更新。
でも紹介するのは中国ミステリではなくフランスのミステリ小説で、その中国語版を読んだ感想だ。
本書は中国で2017年に発売されたが、オリジナルのフランス語版は2012年に出版されている。日本ではまだ未翻訳のようだ。
ちなみに作者は今年8月の上海ブックフェアにゲストとして参加している。
スイスの山奥にあるベイカー街ペンションが雪で外界と隔絶された。その4日後、ペンションから警察に助けを求める電話がかかってきたが、駆けつけた警察が現場で見たものは宿泊客11人全員の死体。電話をかけた者もたった今死んでしまい、ここで何が起きたのか説明できる者はいない。そこに音もなく現れたのは名探偵・レスタード。フィリッポ刑事はレスタードと共にペンションに残された日記を調べる。そこには密室と化したペンションでホームズマニアたちが次々に殺されていく様子が記されていた。
ペンションに集まったのは全員、シャーロック・ホームズが実在したと信じるぐらい生粋(重度?)のシャーロキアンばかり。彼らは世界で唯一ホームズ学を講義できる教授の席をめぐり、ペンション内で誰が一番のシャーロキアンなのかを競い合うことに。コナン・ドイルの未発表原稿を持って来る者、アルセーヌ・ルパンがホームズの子孫だったと言い張る者、ホームズが実在していたという証拠を提出する者、果ては自分がホームズの子孫だと名乗る者も現れて各々がシャーロキアンぶりを披露する。しかし大雪で封鎖され密室となった館には殺人鬼がおり、彼らは一人ずつ殺されていく。
先制パンチがうまい。
登場人物の一人グレッグはペンションへ行く道中、タクシーの運転手の外見を見てホームズよろしく推理を披露する。しかしそれがてんで外れたどころか、運転手からお前みたいなホームズ気取りを今日は何人も乗せたとさえ言われる。
ホームズらしく振る舞っていたところに思わぬカウンターを食らって赤っ恥をかく彼と他の参加者の醜態を見ると、彼らがアマチュア探偵以下のいちファンに過ぎないということがわかり、これから雪の山荘に閉じ込められるというミステリでは鉄板の展開が待ち構えているというのに先行きが不安になる。
彼らシャーロキアンは何者かに次々と殺されていくわけだが、本作に登場する殺人方法はどれも別に凝ったトリックは使われない。それどころか他の生存者たちがそれを殺人だと疑わない事件すらある。なぜならペンション内にいる全員にアリバイがあるわけだから、殺人の可能性を考えずに事故か何かという結論を出すのだ。
本作の肝はまさにここで、ホームズ脳の彼らはみな「密室内に自分たち以外の人間がいるはずがない」と思い込んでいる。さらに警察も密室内で全員死亡となれば、そこから先に思考を進めることがない。
事件の当事者がいない以上、眼前に出された証拠がそれで全てであるのかどうかわからず、そしてそれら全てが真実かどうか判断できない。その現場で一体誰が主導権を握るのかと言えば、それは探偵だ。本書は探偵が事件現場で持つ発言権の大きさと、探偵への信頼が盲目的な性善説に基づくということをブラックユーモア溢れる筆致で描いている。
結局のところペンションに集まった彼らはホームズマニアというだけで、まともな推理などできず、極限状態に追い詰められた彼らはアガサ・クリスティを読んでいる者を魔女裁判のように槍玉に挙げたり、自分たちの現状がまるで某古典有名ミステリそっくりだと真相がわかった気になったり、ついに怪しい人物を拷問にかけて犯行を自白させようとする。そして死人が出ていると言うのに相変わらずホームズ談義を繰り広げるのだ。
あまりにもバカバカしく、そしてミステリマニアをコケにするような内容だが、肝心のトリックは犯行が作中のカメラワークが及ばないところで行われているとは言えアンフェアではない。登場人物たちは実現不可能な犯罪が実際に起こっているのだから考え方を変える必要があったのだ。
本書にはコナン・ドイルの未発表作などが出てくるがそれは存在しか明らかにされず、作品の中で作中作の形で登場することはない。テーマに合っているのだから、コナン・ドイルの未発表の中身という創作物を書いてページを埋めることもできるし、ホームズの子孫とされている人物の過去をでっち上げるだけで一章まるごと水増しすることも可能だろう。
昨今の水増し中国ミステリを読んだ身からすると「もったいない」ポイントが目立つ。だがそれらを余分な物として削ぎ落とし、中国語版でたった250ページ以下に抑え、結末にのみ焦点を絞っている。
とにかく、長編小説の中に登場人物が考えた短編小説を挿入してページ数を増やす真似をする作家は見習って欲しい。
『珈琲館里的驚奇派対』(喫茶店の不思議なパーティ)
苦手な構成だったので個人的には評価が低い、ってか評価を下したくない、でも中国のSNS豆瓣では評価の高い一品。
鬼節(旧暦の7月15日。日本のお盆に相当)で何もすることなく家でダラダラしていた周斌、李昂、劉胖子(胖子とはデブの意味)の男3人は友人の楊麗華を誘って麻雀をしようと外出するが、楊麗華もまた友人の白香蘭、趙萱と女3人で遊ぼうとしていた。6人は喫茶店に入り、自分たち6人を登場させる殺人ストーリーを各自で披露して時間を潰すことを思いつく。順番に繰り出されるフィクションの中で殺され続ける6人。一つの話が終わるごとに6人の隠された関係性が明らかとなり、いつしか本物の殺人事件が発生する。
この話はいわゆる入れ子構造になっていて、作中の6人が即興(?)で創ったストーリーを披露し合い、各話の終わりに幕間が用意されそこで各人がその話の感想を言い合い、徐々に6人の隠された秘密や関係性が浮き彫りになるという展開です。そして中盤以降に6人のうちの1人が殺され、新たに登場した探偵役のキャラクターがフィクションであるはずの6人のストーリーから真実を見つけ出し、犯人を導き出すという安楽椅子探偵的構造を取っています。ストーリーの各話が独立していながらも殺人事件の発生から解決までの要素が一貫して込められていて、決してアンフェアではなく、事件を起こす前の人間の口から語られるフィクションに犯罪の証拠があるという作品です。
豆瓣でも高い評価を得ている本書のどこに不満があるかといえば、それは根本的に本書の構造にあります。長編小説が読みたくて買ったのに、なぜ作中で素人が創ったという体裁の短編小説を読まされなければならないのか。
以前も赤蝶飛飛の『九度空間』という小説が、有名小説家の残した短編を聞きながら話の大筋が進むというもので、とりわけ面白くもない短編を作中の人物が「素晴らしい」と褒めまくる展開に辟易させられたものです。
それに比べると本書では作中人物に「また俺が被害者か!」とか「私のキャラがおかしい!」とか批判させているのでまだマシかと思います。(もちろんその設定は後半起こる殺人事件のために付けられたもの)
とは言え、昨今の中国ミステリ界隈では短編小説集が出しにくいと言われている、長編小説の方が版権を買われて映像化しやすい、などの状況を見てみると、長編小説を書く体力と構成力がない作者が書き溜めていた短編小説に手を加えてこういう入れ子構造の本を書いたのではないかと邪推してしまいます。
評価は高いですが個人的には受け付けなかった作品でした。
『氷血:零下30℃的刑偵現場』著:薩蘇
著者の薩蘇は日本在住の軍事史学者で専門は当然日中戦争(抗日戦争)時代。中国では小説家としてより歴史家として有名だそうで、知人の中国人も小説は初めて読むが専門書は大学で読んだと言っていた。
8月某日の新刊トークショーで薩蘇は「私にとって歴史を書くのも推理を書くのも一緒」と言っていたが、本書を読むと果たしてこれも「推理小説」のジャンルに入れて良いのか疑問が湧いた。
本書は短編集だがここに掲載されている事件すべて中国で実際に起こった事件であり、実際の事件をモデルにした創作でもない。著者は、日中戦争従軍者で戦後は公安として主に中国東北部で起きた数多くの事件を担当した老丁という老人から聞いた話を小説仕立てで書いている。
表題作「氷血:零下30℃的刑偵現場(凍れる血:マイナス30℃の捜査現場)」は1986年2月に吉林省で起きた実際の列車爆破事件を扱っており、老丁らをはじめとする捜査関係者の活躍や当時の捜査方法や事件背景などをつぶさに描写している。おそらくそこには多少の誇張はあれども虚偽はないだろう。
老丁が語る近代の事件簿は非常に面白い。「西辛荘的『邪門』殺人案(西辛荘の『異常な』殺人事件)」は検視の結果明らかに他殺であるにも関わらず被害者の父親が「事故だ」と主張し、そればかりか他の住民まで「事故だ」と言い張り、ついには被害者の父親が出頭するという有様で、村単位で何かを隠している様子に薄気味悪さを感じさせる。
また「吊死鬼島血案(首吊り島殺人事件)」では冒頭で作者と老丁がテレビを見ていると、日本兵役を演じる日本人俳優が「監督から雪原の中で強姦シーンを演じろと言われたが、あんな寒いところでケツを出してそんなことするヤツいないだろう」という愚痴から物語が始まる。この日本人俳優とはおそらく渋谷天馬のことを言っているだろう。
ちなみにこの「吊死鬼島」とは敗戦時に日本兵が集団自決した場所らしい。
このように舞台が中国東北部であることから、老丁の語る話には日本軍そのものこそ出てこないが、あちこちに戦争の残滓を感じさせる。
ただ本書後半部分に掲載されている1940~50年代の国共内戦による国民党の匪賊との戦いは冗長で読むのに疲れた。これを後半に置いているから恐らく作者が本当に書きたいドキュメントはこっちなのだと思うが、パターンとしては「悪しき国民党の暴徒が勇猛果敢で正義感溢れる共産党に敗れる」しかないのだから、私のような非共産党員にとっては本の中で如何に銃撃戦や知略戦を繰り広げようとも退屈でしかない。
中国では1950~60年代ぐらいに国共内戦を題材にしたミステリ小説ばかり生まれたが、その大半がミステリ小説とは名ばかりの「反特務(反スパイ)小説」ばかりだった。
本当にあった事件を小説化したドキュメンタリーが果たしてミステリ小説なのか。それはただのドキュメンタリーなんじゃないのかと思うが、中国のミステリ小説史を見ると公安や警察や共産党の活躍を描く作品もミステリ小説としてカウントしても良いのかもしれない。