二年前芸能界を騒がせた陣内智則と藤原紀香が正式に離婚しました。
私は早くから彼らの破局を予期していましたが、まさかわずか二年ばかりで終わりを迎えるとは、もっと早く彼らに忠告しておけばと後悔しております。私はこの結末を、藤原紀香が第二の黒柳徹子になりたいのかアフリカへボランティアに行ってる姿を見た段階で、きっと夫婦生活も芸能生活も上手く行っていないからこうするしかテンションを上げられないのだろうと予測していました。
ですが、陣内氏にも落ち度があったと言わざるを得ません。今の時代に浮気を芸の肥やしとする芸人らしさは必要ないでしょう。お笑いの世界とファンは最早そういう慣習を求めていません。もちろん格差婚に苦しんでいたという事実は否定いたしませんが。
しかしこういう事態を迎えてもお笑い芸人はまだもてると言うのでしょうか。松本人志さんや島田紳助氏が長年提示してきたお笑い芸人大もて論のブームが終焉を迎えたのは、木村祐一氏の離婚でしょうか、それとも99の矢部っちの破局でしょうか。とにかく、今回の一件は芸人と結婚しても決して幸せにはならないということを再確認させてくれました。
今回ご紹介するのはそんな夫婦の不和が犯罪事件まで発展した不朽の名作、ポーの『黒猫』です。
黒猫ならむかし、ジャンプで掲載されていたアウターゾーンという漫画で黒猫の形をしたポケベルごと女の子を壁に埋めたせいで、それが鳴ってしまい事件が発覚してしまったという全然エロくなかった内容を読んだことがありますので、結末なんか読む前からわかっていましたよ。
作中で黒猫は男の嫌悪感を煽り、妻を誤って殺させるほどの悪意を持った不吉の象徴として最後まで男の邪魔をします。思えば夫婦生活というものは上手く行くようでいてその実、一匹の猫に振り回されるような不安定なものなのでしょう。では陣内・藤原夫婦にとっての黒猫はいったいなんだったのか。そこは言わないでおきましょう。
しかし殺人に比べると陣内夫婦が決めた離婚はまさに英断と言えますね。両者の言い分が気になるところですが、我々は口を挟まず、黙って今後の二人の進展を見守っていきましょう。
今回は、史上初の推理小説と名高いエドガー・アラン・ポー作の『モルグ街の殺人』をレビューします。
ポーが世界で初めて全ての証拠を読者に提示する作品スタイルと、論理的な解釈を行う探偵像を創り出したのは最早ミステリ業界の常識でありますが、古典となった現在ではその常識だけが一人歩きしていてミステリファンとは言え目を通している読者は少ないんじゃないでしょうか。
ただ彼らが手に取らない理由も分かります。モルグ街の殺人事件は現代ではもう通用しません。
まず書き出しに、チェスとドラフツのゲーム性の比較から凡人と探偵の分析能力の違いを説明していますが、ここはわかりにくい。
ドラフツはチェスよりも手の読み合いが必要になる、そういう意見には私も同意せざるを得ませんがしかし一般人にこの例えはもう理解できないでしょう。後世に残る作品なのだから、ゲームのブームぐらい見計らって貰いたいです。
本作最大の見所はなんといっても犯人です。世界で初めて密室犯罪を扱った作品でもある本作が古典たるにふさわしい原因は、犯人が人間の手には負えないモノだったというところが大きいと思われます。
作者が作品内に犯人像を描写するときはもっとも精細な筆致を用いなければ、勘の良い読者にはその粗忽を見抜かれ至高のトリックも二束三文なペテンになりかねません。丁寧さと誠心誠意をもって事件の核心部分を精密に描き出すことが、推理小説家の腕の見せ所であります。
犯人の姿が明らかになる箇所は事件の目撃者、正確に言えば『聴いた』人物たちの証言を探偵であるオーギュウスト・デュパンが検証するところです。犯人の叫び声を聞いた彼らは一様に外国人が犯人だと言いますが、彼らが言う外国人はフランス人であったりイタリア人やロシア人であったりとバラバラで統一しません。
ここで私はピンと来ました。
おそらくポーは情報を過剰に出して推理ミスを促すように書いたのでしょうが、第三者の視点で物事を俯瞰できる読者にはこれは逆効果です。外国人一人の国籍を当てるにしたってこんなに意見の相違が見られるということは、もしや犯人は人間の声を発していなかったんじゃないか、つまり人外なんじゃないかと思い至るのも仕方ありません。
ならば現場の状況から見て犯人をオランウータンと結論付けられるのも時間の問題です。
チェスとドラフツの話を引き合いに『読み合い』を述べた今作ではありますが、下手の一手を好手と捉えた者たちが慌てふためくトリックの展開には警察の初動捜査のミスと言わざるを得ません。
さて、読み合いと言えば格闘技の世界もコンマ一秒を争う、チェス以上の攻防が求められます。ホームズも東洋の武術『バリツ』を会得していたからこそ命が助かった場面がありますし、今度から探偵は頭脳よりも肉体面を重視しては如何でしょうか。
この小説は2005年に本格ミステリベスト10の一位、2006年に直木賞、本格ミステリ大賞を受賞しました。直木賞は東野氏にとってまさに悲願でもあり、六度目のノミネートでようやく掴んだ大賞です。